「デフレ脱却、経済再生」を「福島再生」の次に掲げた安倍政権がスタートした。選挙期間中、デフレ脱却・経済再生、教育再生が最も安倍総理の口をついた回数が多かったのではと思う。
元総理2人を含む、各分野の政策通が閣僚入りし、副大臣、政務官も重厚な人事になった。「危機突破内閣」と総理自ら語る陣容になった。「経済再生」「復興」「危機管理」が柱になっている。
一方、投票率の低い総選挙だった。それは地方組織力を高めてきた自民党、公明党にとって優位に働いた。そして、大阪と東京で強さを発揮した日本維新の会も地域限定ながら、その地域での裾野の広がりを示した。民主党や俄(にわか)仕立ての日本未来の党など地方基盤が脆弱な政党はことごとく惨敗した。
原発・エネルギー問題だけの国民投票なら全く違った結果も予想できただろうが、国政はそうではない。そのことも鮮明に現れた。
しかし、自民党の圧勝により、石破茂自民党幹事長は「原発も争点だった。われわれは逃げなかった」とし、原発・エネルギー政策においても、自民党は支持されたとの判断をしている。
茂木敏充経済産業大臣は野田政権が決めた2030年代原発依存度ゼロの見直しに言及し「2030年代に原発ゼロという決め付けはしていない」と野田政権での政府方針の大きな塗り替えを早くも行った。安全を最優先にするとしながらも原子力規制委員会の安全性が確認された原発については、放射性廃棄物の最終の行き場も決めない状態で「再稼動する」ようだ。
安倍総理は原発について「自民党としての基本的な姿勢がある。公明党の公約もある」と連立政権合意を踏まえたうえで「国民の生活・暮らしに責任を負う政権として、電力需要にどう対応していくか検討しなければならない」と強調する。
「原子力規制委員会において厳しいルールをつくっていく。これは安全が第一だから、そのルールのもとに、3年間において稼動すべきかどうか判断を進めていく」と脱原発路線からはそれる。
一方、社会的弱者とされる高齢者や生活保護者に対して、早くも厳しい見直しにむけた動きが表面化してきた。
70歳から74歳までの医療費窓口負担は現在1割だが、これを2割にする。すでに自公連立政権の下で2割負担にすることは法律で決まっていたが、高齢者の負担増をなるべく少なくするため、自公が実施を暫定的に先送りしてきたものだ。
野田政権はこれを踏襲し、現在まで1割のままできた。これを見直す調整が自公で始まり、厚生労働大臣も「もともと暫定措置だった」として「与党と話し合って適切に判断する」と見直しの考えを語っている。
生活保護についても、田村憲久厚生労働大臣は生活扶助について「1割カットを公約にもあげていた」と「最大上限1割程度の削減」にむけた取り組みを検討していくことを語った。生活扶助の削減より、適正な制度運用をいかに進めるか、あわせて、不正受給への厳格な措置により「本当に必要な人に必要な扶助を」保障することこそ期待されている。
厚生労働省は野田政権時代に生活保護制度の見直しなどを含む生活支援戦略をまとめている。そこでは就業に前向きな受給者に給付を上乗せし就業支援を強化することや不正受給者には制裁金を科すなどの措置も盛り込んでいた。受給者を扶養できないとする親族にその理由を証明させるなど、まずは、こうした不正受給を解消する手立てをしっかり実施すべきで、 受給額削減の検討はそれからにすべきだろう。
集団的自衛権の行使への解釈変更や学校での道徳教育の推進など、特に「教育勅語」をすばらしいとする人を党の主要ポストに就任させたことも教育行政にどういう変化をもたらすのか、田中眞紀子前文部科学大臣が教育の右傾化を懸念していたが、懸念する国民も少なくないことを踏まえ、総選挙の結果が全ての自民党公約を承認しているものではないことにも、政権与党にはこころし、慎重な対応を願いたいものだ。(編集担当:森高龍二)