【2014年の振り返りと2015年の展望】通信業界(モバイル) それは泳ぎ続けないと死んでしまう回遊魚

2015年01月08日 20:19

 ■出る杭は打たれたソフトバンクの世界戦略

 日本のモバイル三大キャリア、NTTドコモ<9437>、KDDI(au)<9433>、ソフトバンク<9433>の2014年は、ソフトバンクの世界戦略ばかり目立った1年だった。

 9月19日にアップルの「iPhone6」が発売された。その結果、スマホのメーカー別シェアはアップルが57.2%を占めている。日本では販売奨励金制度で安く手に入れられるおかげもあるが、日本人のブランド信仰、ここに極まれり。おごれる平家ではないが「iPhoneを持たざる者は人にあらず」という状況になっている。そのiPhoneをドコモも含めて3社とも取り扱うようになったので、三大キャリアの間の有利、不利はなくなった。国内ではシェアがほとんど動かなくなったので、ソフトバンクは海外戦略、特にアメリカのモバイル市場に重点を置いた。

 ソフトバンクが、2013年7月に買収を完了した全米シェア第3位のスプリントを介し、第4位のドイツテレコム傘下のTモバイルUS買収に正式に名乗りをあげたのは2014年3月だった。買収に成功すればトップのベライゾン、第2位のAT&Tの追撃態勢が整ったが、ドイツテレコムは乗り気でもFCC(連邦通信委員会)や、「反トラスト法(独占禁止法)」という〃伝家の宝刀〃を持つ司法省から横ヤリが入り、フランスのイリアドという対抗馬も現れた。紆余曲折の末、結局スプリントは8月にTモバイルUS買収を断念。イリアドも10月に買収を断念している。やはり「出る杭」は打たれた。モバイルとは直接関係ないが、9月にはソフトバンク傘下の中国のネット通販会社アリババ集団がNY証券取引所への上場を果たした。

 ソフトバンクの海外でのニュースが連日のように伝えられる中、春先からの国内モバイル市場の最大のニュースは「格安スマホ」だった。ビックカメラ<3048>やイオン<8267>など異業種も参入し、「格安キャリア」と呼ばれる仮想移動体通信事業者(MVNO)の日本通信<9424>、IIJ<3774>などはマーケットで俄然注目された。三大キャリア側も「音声通話定額制」など新料金体系を打ち出してそれに対抗した。

 ■5月のSIMロック解除の影響は限定的か?

 2014年12月22日、総務省は「SIMロック解除に関するガイドライン」を改正し、利用者から申し出があれば端末のSIMロックの解除に応じることを国内キャリア各社に義務づけた。原則として2015年5月以降に発売する全機種が対象で、スマホの機種の乗り換えがより自由になるという意味で「SIMフリー化」と呼ばれている。

 だが、スマホユーザーの大部分はぜいたくに慣れている。データ通信の速度は「LTEだ」「いやVoLTEだ」と、業界最速でないと満足しない。本体メモリーは使い切れないぐらいたっぷりなければ物足りない。ある機能が身近な人のスマホにあって自分のスマホにないのは許せない。デザインも、色も、表示も、出す音も、自分の感性に合わないのは許さない。一方、格安キャリアと安価な機種が組み合わさった低価格の「格安スマホ」は、安さと引き換えにユーザーに妥協を強いる。データ通信速度が遅くても、本体メモリーが少なくても、機能を落としていても、某国製機種のデザインがダサくても、安いから我慢する。「短期間だけ」「2台目、3台目」「子どもに持たせる」「複雑な操作が苦手」「カネがない」など、何か事情がある人が格安スマホのユーザーになっている。

 だから格安スマホはこれまでも、アップルのiPhone やソニー<6758>のXperiaのような最上位機種とはユーザー層が重ならず、脅威にはならなかった。もし、5月以降のSIMフリー化で三大キャリアの別のキャリアや格安キャリアへのSIM差し替えが可能になっても、最上位機種を使っていると機能が制約を受けるだけでなく、音声通話ができなくなる、通信速度が極端に遅くなるといった致命的な事態も招きかねないといわれている。そこまでのリスクを負っても通信費の安さを志向するユーザーは、ほとんどいないだろう。

 利用者を高額の違約金で引き留めて囲い込む、いわゆる「二年縛り」も存続が決まっており、それも考えると5月のSIMフリー化の影響は限定的ではないか。だからスマホと格安スマホはすみ分けて共存し、秋に新型iPhoneの登場によってSIMフリーを利用した三大キャリア間の移動が一定数出るとしても、格安キャリアを巻き込んだシェアの大変動までは起こらないと思われる。

 ■「ドコモ光」でドコモが悲願のシェア50%?

 むしろ、2015年に起こりそうなのは、通信の他分野との兼ね合いでモバイルのシェアが動くという現象ではないだろうか。そのきっかけになりそうなのが、2月に予定されているドコモの「ドコモ光」サービスの開始である。これはモバイルと固定光回線をセットで契約することで割引くといういわゆる「セット割」で、KDDIやソフトバンクは以前から行っていたサービスだが、昨年秋になってようやくドコモにも認められた。ドコモが東西のNTTから光回線の〃卸売〃を受けて、一括して通信サービスを提供する。

 この「ドコモ光」によってドコモは、過去にKDDIやソフトバンクに流れた利用者を取り戻せる可能性がある。セット割で失ったシェアをセット割で取り返す。その規模がどの程度になるか読みにくいが、他キャリアへの流出を許した「iPhoneがない」という決定的なハンデは、すでに解消している。2015年中に通信速度下り最大225Mbpsの提供を開始するモバイル高速化も売りになるだろう。2014年の4~9月中間決算は減収減益で「一人負け」したドコモだったが、「ドコモ光」で悲願のシェア50%を奪回し2015年度の業績も増収増益の大逆転というシナリオも、まんざら夢物語とも言えない。

 もちろん、KDDIもソフトバンクもそれをただ、指をくわえて見ているわけにはいかないだろう。防衛策としてセット割の値下げなど何か手を打ってくるはずだ。当然、それにはそれなりのコストがかかる。2014年は新料金体系でコストがかかり、2015年は今度は「ドコモ光」への対抗策でコストがかかり、採算を脅かす。「利益なき繁忙」につながるかもしれない。しかし、やめるわけにはいかないのが競争の無間地獄である。モバイルキャリアとはまるで、ひたすら泳ぎ続けないと死んでしまう回遊魚のようなものだ。(編集担当:寺尾淳)