光で居場所を探せるインフルエンザウイルスとは ワクチン開発に期待

2015年03月27日 08:28

 国内だけでも約1000万人が感染する季節性インフルエンザウイルスは、医学・公衆衛生上、最も対策が必要な病原体の1つである。ワクチンは、インフルエンザの予防法として最も有効だが、発症を完全に予防することはできない。治療薬として、体内でのウイルス増殖を抑える抗インフルエンザ薬が開発されているが、近年は抗インフルエンザ薬に耐性を持つウイルスが流行するようになっている。

 インフルエンザウイルスの研究において、生体内でウイルスがどの細胞に感染しているか、感染細胞を判別することは、最も重要で基本となる情報の1つである。これまでは免疫組織化学的な手法が一般的で、感染動物から摘出した臓器をホルマリンなどで固定し、感染細胞を同定していた。しかし、この方法では細胞を固定してしまうので、感染細胞を生きたまま解析することができない。
 
 今回、東京大学 医科学研究所の河岡義裕教授と福山聡特任准教授らは、4種類の蛍光たんぱく質を発現するインフルエンザウイルス「Color-flu(カラフル)」の作製に成功したと発表した。Color-fluは、蛍光たんぱく質を利用して感染細胞を光らせるので、インフルエンザウイルスの感染によって起こる炎症など、生体内でウイルス感染が広がる様子をさまざまな手法で画像分析することが可能になるという。

 この研究では、ウイルス本来の病原性を保ち、かつ挿入した蛍光たんぱく質の発現をほぼ完全に維持できるウイルス株を樹立することに成功した。インフルエンザウイルスの存在を示すレポーターとして、蛍光波長の異なる4種類の蛍光たんぱく質eCFP(青緑)、eGFP(緑)、Venus(黄)、mCherry(深赤)を用いた。そして、Color-flu(がさまざまな画像解析手法に応用できることを実証した。

 深部の組織が観察できる2光子レーザー顕微鏡を用いて、マウスの肺組織におけるウイルス感染細胞とマクロファージのタイムラプス撮影に初めて成功し、インフルエンザウイルスの感染により炎症が生じる様子を詳細に確認できた。さらに、Venusを発現する高病原性鳥インフルエンザウイルスを作製し、肺での感染の広がり方を高病原性ウイルスとインフルエンザウイルス(PR8株)とで比較することができた。

 これにより、作製した病原性を維持したまま蛍光たんぱく質を発現するインフルエンザウイルスは、ウイルスに対する生体防御や気道炎症のメカニズムの解明に役立つことが期待されるという。(編集担当:慶尾六郎)