糖尿病治療が大きく進展 東北大らが膵島分離の新規酵素カクテルの開発に成功

2015年03月28日 18:16

 厚生労働省によると、2007年の段階で全国の糖尿病患者は、可能性を否定できない人までを含めると2210万人もいるという。重篤な糖尿病の治療には、膵島という臓器の移植が有効とされている。膵島のような細胞移植治療は、全身麻酔や開腹手術を一切必要とせず、ごく少量の細胞を点滴の要領で注射することで済むため、次世代の画期的移植医療として大きな注目を集めている。

 しかし、提供された膵臓から膵島細胞を分離する技術は容易ではなく、世界のトップレベル施設においても膵島分離功率はいまだ 30%程度である。さらに、膵島移植にたどりつくケースでも、1 個の膵臓から回収できる膵島の収量が不十分であるため、1人の糖尿病患者の治療に複数の膵臓が必要であり、膵島分離効率の改善が重要な課題だった。

 東北大学未来科学技術共同研究センター(大学院医学系研究科兼務)の後藤昌史教授、同大大学院医学系研究科先進外科の大内憲明教授、佐藤(田頭)真実医師、同大大学院医工学研究科の村山和隆准教授、東京農工大学大学院農学研究院の山形洋平教授らのグループは、膵島移植に有効な新規膵島分離酵素成分を同定し、膵臓からの膵島細胞回収率を飛躍的に向上させる新規酵素カクテルを開発したと発表した。

 膵島移植のためには、まず、臓器提供者から提供された膵臓から細胞分離酵素剤を使用して膵島細胞を回収する必要があるという。現在、世界中の臨床現場で使用されている膵島分離酵素剤は、クロストリジウム菌のコラゲナーゼとバチルス菌のサーモリシン(中性プロテアーゼの一種)のカクテル(混合物)である。しかし、これまでの研究により、第三の酵素成分と呼称すべきタンパク質分解酵素が膵島分離成功の鍵を握ることが指摘されてきたが、その同定には至っていなかった。

 今回同研究チームは、コラゲナーゼを産生する細菌株であるクロストリジウム菌に多量に存在するタンパク質分解酵素クロストリパインに着目し、高純度なクロストリパインを作製することに成功した。さらに、同じクロストリジウム菌の中性プロテアーゼ(ChNP)の高純度品も作製し、従来用いられてきたバチルス菌中性プロテアーゼであるサーモリシン(TL)と、膵島分離効率について比較した。その結果、新規成分を組み合わせた酵素カクテルを用いて膵島の分離効率を飛躍的に増加させることができた。また、分離した膵島の障害も、新規成分を組み合わせた酵素カクテルで最も低い(最も健康である)ことが明らかになったという。

 この研究により、膵島分離成功の鍵を握る第三の酵素成分がクロストリジウム菌のクロストリパインであることが明らかとなったとしている。また、クロストリパインは、同じ菌の中性プロテアーゼと組み合わせることで相乗効果を発揮し、膵島の質を落とすことなく膵島分離効率を効果的に上げられる革新的酵素剤であることを実証することができたという。(編集担当:慶尾六郎)