これまで日本経済を牽引してきた自動車業界にとって、2012年はまさに試練の一年となった。欧州の金融不安などから広がる世界的な経済不振と歴史的な円高、さらには尖閣問題から発した日中関係の悪化による対中輸出の大幅な減少など、国内販売ではエコカー補助金効果のプラス材料があったものの、自動車産業を取り巻く環境は、特に一年の後半に厳しさを増していった。
そんな状況の中でも、好調な動きを見せたのが軽自動車だ。全国軽自動車協会連合会が発表したデータによると、景気停滞により人々の節約志向が高まったことなどもあり、2012年間新車販売台数は 1,979,447台で前年比30.1%増となり、2年ぶりのプラスとなった(全国軽自動車協会連合会の集計データより)。2006年以来約6年ぶりに年間200万台の大台を突破とまでは至らなかったものの、過去2番目の販売台数を記録した。結果的に、海外での販売不振が続く普通乗用車の落ち込みを、軽自動車が国内販売でカバーするような形となった。
そんな軽自動車の躍進の立役者となったのが、ホンダ<7267>の「Nシリーズ」だ。2011年12月に発売したシリーズ第1弾の「N BOX」は、軽四輪車新車販売台数で2012年4月から5ヵ月連続第1位となり、発売以来の累計販売台数は16万台を超える大ヒットとなった。7月にはシリーズ第2弾として「N BOXプラス」、11月にはシリーズ第3弾の「N ONE」を立て続けに市場に投入し、販売台数も高水準を維持している。この「Nシリーズ」のヒットにより、ホンダは、これまで軽自動車において高いシェアをキープしてきたダイハツ<7262>、スズキ<7269>の2強との差を大きく縮め、わずか一年で新しい3強体制の構図を築き上げることに成功したのだ。
しかし、今年2013年は軽自動車にとって真価が問われる一年になりそうだ。ホンダの軽自動車での成功を目の当たりにして、他の大手自動車メーカーも益々、国内の軽自動車市場を軽視できない環境になってきている。なかでも注目が集まるのは、日産<7201>と三菱自動車<7211>の共同開発した軽自動車の販売がいよいよ今年からスタートするところだろう。最大手のトヨタ<7203>もダイハツからのOEM調達をさらに活発化していく方針のようだ。
軽自動車の展開に関しては、国内市場が悪くなれば、海外市場に目を向ければいいという発想を持ち合わせていない。軽自動車の規格自体、日本特有のものであり、まさしく日本のメーカーが日本人のライフスタイルを考えて作り上げた「究極の日本車」であるからだ。低価格、低燃費の為、不況下でも安定した新車販売台数を維持しており、それを裏付けるように、昨年9月にエコカー補助金が終了した後、普通乗用車の販売数が落ち込む中でも、軽自動車の新車販売台数は減少するどころか、逆に増えているのだ。
安倍自民党政権に変わり、新しい年を迎え、株高・円安の傾向が続いていることから、日本経済再生への期待は膨らんでいる。円安が進むことで、日本の自動車メーカーも国際的な競争力を取り戻せば、海外市場での巻き返しは期待できるだろう。しかし、国内市場においては、今年は普通乗用車の新車販売台数をエコカー補助金効果があった昨年レベルを維持するのは難しいと予測されている。景気上昇ムードからのデフレ脱却が叫ばれている中、昨年末に華々しく登場した新型クラウンなど大型高級乗用車なども話題を集めているが、当分の間は堅実に軽自動車を選択する消費者が減る気配は今のところなさそうだ。(編集担当:北尾準)