市区町村の首長選挙をはじめ、都道府県レベルの首長選挙でも、選挙公約に「身を切る施策」での「首長報酬のカット」が、ここ数年、特に目立つようになった。
月額報酬の20%カット、30%カットは当たり前になり、中には50%カットを掲げて戦う候補も珍しくなくなった。
総務省によると市区町村長ら特別職の報酬削減は全国1728自治体の中の848自治体(平成23年4月1日現在)で行われ、削減効果額は年間33億円になっているという。
50%削減を行った自治体の首長もいる。自ら身を切る改革、歳出削減の姿勢は評価されなければならない。ただ、削減にも程度がある。半減すれば市職員の部長職より給与は低くなる。そこまで切り込めば聞こえはいいが、モチベーションが4年もの間、保たれるのか。首長交代があったとき、次の首長はどうなるのか。懸念の声もある。
昨年の選挙事例にみると、村長選挙で3人が立候補し、新人2人が村長報酬を半額にすると公約に掲げた。現職は自身の報酬に触れていなかった。そのため「ほかの候補は半額にすると言っていますが、村長はどうされますか」と尋ねたところ「わたしは、やりません。キチッと報酬は頂きます。そのかわり、それ以上の仕事をします」と堂々と回答してきた。
報酬とはそういうものなのだ。有権者(住民)が首長の報酬を高いと感じるかどうかは首長の働き次第ではないのか。ファイトマネーなのだから。
他の市長選挙の事例では3候補のうち、現職を含む全員が市長報酬を半額にするとし、さらに、現職は退職金も半額にするとして公約に掲げた。もともと現職再選の確率の高い選挙であったのだが、予想通りに現職が再選した。
当選後、市長報酬と退職金の50%削減の条例案が理事者から提出された。退職金の削減は認められたものの、報酬削減については議会でも認めるべきかどうか議論になった。
周辺市町村への影響に加え、下げ幅が大きすぎる。報酬は、本来、仕事の対価であり、退職金の削減と意味合いが違うなどなどがあがった。
市長は地元企業の経営者や一般市民ら第3者による人らに意見を頂き、参考にしたうえで議会に判断を委ねることとなった。その結果、下げ幅は20%の下げになった。これは議会承認された。
市長ら常勤の特別職や議会議員報酬の適正基準は、市長や議会と距離のある第3者機関で透明性を持って議論して決めることが良い。その前提は第3者機関の人選を市長が選任するのではなく、自治体の財政規模や財政基盤などから計数分析できる当該自治体に在住しない公認会計士や中小企業診断士などの専門家、地方自治研究者らと地元の中小企業経営者や地元の労働者、主婦らから一般公募して、審議会メンバーを決めること。
大方の自治体は特別職の報酬審議会委員は公的団体や経済団体の代表者、大学教授、公認会計士らで構成してしまっており、サラリーマンや家計をやりくりする主婦など一般庶民感覚からズレたところの委員が多い。しかし、地方自治体の住民らの大方はそうした生活感覚の視点から理解できるファイトマネーに納得し、期待値に見合った報酬を示していきたいと考えていると思われる。
審議会委員には利害の余地が入らない委員構成で、オープンに審議すれば自然と妥当な報酬額が算出されるだろうし、首長が選挙で自身の報酬削減を叫ばなくてもよくなるだろう。
こうした制度的な改革が進まない限り、報酬削減を公約に掲げる首長は後をたたないし、選挙で支持を得るひとつの方法になり続けるのだろう。
今年も全国各地で自治体の首長選挙が予定されているが、極端な削減幅を公約に掲げたりするのではなく、一般職を含め、全員で広く薄く削減することにより、継続的な人件費削減につながる改革を提起すべきであり、地域を元気にする政策、雇用を創出する政策、多世代が夢や希望、幸福感を持てる政策を提示してこそ、行政のリーダー、政治のプロとして求められていることを自覚して頂きたいと願う。(編集担当:森高龍二)