トヨタ自動車は昨年、自社として5年ぶりとなる新型スポーツカー「86(ハチロク)」を発売した。コンセプトは「若者にもう一度クルマの魅力を伝えたい」。価格も30歳前後の若者を意識し、売れ筋モデルは200万円台に抑えたという。しかし蓋を開けてみれば、購入したのはシニア層が中心。ターゲットの若者は見向きもしなかった。
「若者の車離れ」といわれるが、若者は本当に車を買わなくなっているのだろうか。20代の車保有率はここ数年、6割前後で推移しており、特に減少傾向は見られない 。地方などでは今も車が必需品であり、全ての若者が車を持たない生活を送っているわけではない。
とはいえ、若者のクルマ選びには変化が見られる。ひとつが「中古車志向」。30歳未満の若者の新車普及率はほぼ横ばいだが、中古車の普及率は上昇傾向にある。若者は車を買わなくなったのではなく、新車を買わなくなったのだ。
もうひとつは「軽自動車志向」。今や自動車を保有する10代・20代男性のうち、3人に1人が「マイカーは軽自動車」である 。10代・20代の軽自動車保有率は、2010年の25.8%から2012年は36.8%と、2年間で大幅に増加した。ダイハツがおこなった調査 では、自動車を欲しいと思っている若者の2人に1人が「軽自動車を選択肢に入れる」と回答。同調査では女性から見た「軽自動車に乗っている男性」のイメージも尋ねているが、「堅実」(36%)、「エコ」(34%)、「マイペース」(21%)など、悪いイメージは見当たらない。
こうした若者の「中古車志向」と「軽自動車志向」を、自動車業界は「若者の車離れ」と呼んでいる。価格が安く利幅の低い軽自動車より、普通車を売りたい自動車業界の思いも理解できる。しかし経済状況が不安定な今、若者が、価格の高い新車や維持費のかかる大型車、スポーツカーなどに魅力を感じなくなるのは当然だろう。
多くの若者は「身の丈にあった車」を求めている、というよりそのような車しか買えないのである。若者がクルマから離れたのではなく、クルマが若者から離れていったのかもしれない。