ファーストリテイリングは日本マクドナルドの轍を踏む?

2012年06月11日 11:00

 6月4日、カジュアル衣料店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、5月の国内ユニクロ事業の既存店売上高が前年比10.3%減になったと発表した。4月に続いて前年比マイナスになり、2ケタ減は昨年9月以来である。既存店客数は11.9%も減った。3から8月期(下期)の既存店売上高前年同期比1.3%増という業績見通しも、半分過ぎた時点で5.4%減で、達成は苦しくなっている。

 翌5日、同社株は前日終値に比べて9%も急落。1銘柄だけで日経平均を62円も引き下げ、ファナック、ソフトバンクと並び「日経平均寄与度御三家」と呼ばれる影響力を見せつけた。冬から春には「ヒートテック」のヒットで日経平均1万円乗せの牽引車になっただけに、市場の失望感は大きい。

 ユニクロ2ケタ減の要因は何か。同社では「気温の低下で夏物衣料の動きが鈍った」「昨年より休日が2日少なかった」と、お天気とカレンダーのせいにしている。だが、同じ5月に同業のライトオンやしまむらは既存店売上高がプラスになっているから、その言い訳だけでは納得できない。「ヒートテック」から春物、夏物へのバトンタッチがうまくいかなかったための一時的な現象ととらえる向きもあるが、「ユニクロ」にはもっと構造的な問題が潜んでいるという声が、ここにきて大きくなってきている。それは「過剰出店」で、同業他社の人、アナリストから一般の消費者まで、「ユニクロは店が増えすぎた」と指摘する。

 ユニクロの国内店舗数は、09年8月期末770、10年8月期末808、11年8月期末843と年間30店舗以上のペースで増えてきた。12年8月期末の見込みは852で前期比+9店舗だが、当初48店舗予定していた新規出店を物件を確保できずに30に減らしたというから、積極出店のマインドは変わらない。だが、「ヒートテック」の大成功で上期の既存店売上高は2.3%増になったものの、9から11月期は不調で計画が未達になり12年8月期の既存店売上高見通しを下方修正するなど、国内ユニクロ事業には以前から陰りが見えていた。上期も売上高総利益は48.2%で、前年同期比で1.3ポイント低下していた。

 ユニクロの弱点について言われているのが、特に首都圏で狭い地域への集中出店を進めてきたことによる「カニバリゼーション(共食い)」である。たとえば東京・新宿には3月に1店舗閉鎖するまで8店舗もあった。駅に北口と南口があれば、両方の大型商業施設にテナントとして入る。急行や快速が停まる程度の私鉄の駅前や、駅から離れた住宅地にも出店しているので、通勤の帰りに会社の近く、乗り換えのターミナル駅、下車駅、自宅の近所と、ユニクロの赤い看板を頻繁に見ることになる。一般の消費者が「ユニクロの店は多い」と感じるのも無理はない。

 集中出店、大量出店はヒートテックの時のようにヒットに火がつけば相乗効果を発揮するが、ブームが一巡すると客足が遠のき売上が落ちるのも早くなる。新聞やアナリストがファーストリテイリングについて判で押したように「次のヒット商品に期待」と書くのは、ヒット商品が出ないと膨れあがった店舗網を維持するのが難しくなるからだろう。

 かつて、似たような大量出店をしたチェーンがある。「マクドナルド」だ。93年に1000号店、96年に2000号店、99年に3000号店を出店するというハイペースで、大都市圏近郊では「各駅停車でマックがある」ような有様で郊外型店舗も増えた。ハンバーガー1個を期間限定で80円や65円で売ったり、平日は半額にしたりした企画がヒットし、「デフレ時代の勝ち組」とも言われた。

 だが、それにも終わりはきた。株式上場を果たした翌年の02年、日本マクドナルドは創業以来初の赤字に転落。拡大路線は頓挫して店舗閉鎖に踏み切らざるを得なくなり、希望退職者の募集や事業リストラも進めた。大量出店の「イケイケ路線」のツケは決して小さくはなかった。

 絶好調の時でもマクドナルドについて言われたのが「新店効果で増収でも、既存店売上高は徐々に減っている」だった。今年の4月、5月は、それがユニクロにも当てはまっている。この先、10年前の日本マクドナルドと同じように大量出店のツケを払わされることになるのだろうか?

 そのファーストリテイリングは東京・銀座に3月に開店したユニクロ「グローバル旗艦店」(売場面積1500坪)の成功に味をしめ、秋には既存店がひしめく東京・新宿に出店する。さらに原宿、渋谷、池袋、上野、大阪、名古屋、札幌、福岡、仙台などでもグローバル旗艦店を出店する計画だが、この夏の業績次第では、そんな「イケイケ路線」にも区切りをつけざるを得なくなるかもしれない。