利用進むAI 金融分野や医薬分野での新薬開発、バイオ分野などで活発化

2015年11月20日 10:37

 矢野経済研究所では、人工知能(AI)活用の可能性を分析し、中長期予測を行った。調査期間は2015年7月~10月、調査対象は人工知能関連技術の研究開発を行う企業、大学、研究機関など。調査方法は同社専門研究員による直接面談。

 昨今、注目度の高い人工知能(AI)だが、この調査ではどの分野にいつ頃活用されるかの中長期予測を行い、ロードマップを作成した。AI 活用の中長期予測に用いた判断基準としては、①AI 適用によるインパクトの大きさと内容、②当該業界の投資意欲、投資力、③技術的な適性、④実現のスピードの4項目を考慮し、総合的に評価した。

 現時点では人工知能(AI)の能力は限定的であり、短期的には現在既に利用が進んでいる業務・領域で利用拡大が進むとみられ、主に金融分野のトレーディングや不正検知、医薬分野での新薬開発、バイオ分野などで利用が活発化するという。

 AI の発展をリードする注目技術であるディープラーニングによって、画像認識は高い精度を得ている。活用事例としてはレントゲンや MRIの画像から、医師の診断を支援するための医療画像診断などに適用され、診断を行う際に高い効果を発揮すると期待されるとしている。現在、世界的に AI の技術開発が積極的に推進されているため、技術面では急速にレベルアップし、中長期的な本格普及の基盤をつくるものと考えるとした。

 また、長期的には、人工知能(AI)は様々な産業に大きなインパクトを与え、産業構造に変化をもたらすという。インパクトの大きい分野の事例としては、自動車分野における自動運転走行の実用化や、製造業のスマートファクトリー(産業ロボットの活用などによる工場の自動化)の実現が挙げられる。

 自動運転走行は、車両の周囲の条件を把握し安全で快適な運転を支援する技術であり、様々な人工知能技術の活用が見込まれるとした。日本政府は 2020 年の東京五輪・パラリンピックまでに、実用化を実現させる方針を打ち出している。ただし、安全性の確保、法整備、インフラ整備などの社会的課題があるため、

 本格的に市場が立ち上がるのは 2025 年以降になるとしている。自動車産業のみならず、貨物輸送や旅客輸送など関連産業を巻き込み、産業に大きなインパクトを与えると予測した。

 製造業においては、ドイツのインダストリー4.0 構想に含まれるスマートファクトリーの実現に向けて AIが活用されると見込んだ。それによって、産業ロボットの活用による製造、発注や在庫管理の自動化、マスカスタマイゼーション(個別品の大量生産)などが実現し、長期的には産業構造の変化につながるものと考える。

 他方で、AI の活用が積極的に進まない分野もあると考える。例えば流通業では、マーケティングやレコメンド(推奨機能)の高度化や接客の自動化のために AI が活用される見込みはあるが、AI による精度向上の費用対効果が評価されづらく、業界全体では大きなテーマにはならないと予測した。

 また、介護分野では国家プロジェクトとして介護ロボットの活用が推進されているが、この場合でいうロボットは AI のような高度な技術や最先端技術を追求したものではなく、低価格化と実用性が重視されている。一方で AI の活用により、高い効果も期待されるが、そのためには公的な支援を含めて資金調達が必要であるとしている。(編集担当:慶尾六郎)