老人ホームなどの倒産が増えている。東京商工リサーチの調査では、今(2015)年1~10月の「老人福祉・介護事業」の倒産が62件に達し、すでに前年の年間件数(54件)を上回った。介護保険法が施行された2000年以降では、過去最悪のペースをたどっている。介護報酬が今年4月から9年ぶりに引き下げられたことに加え、介護職員の人手不足もあり、厳しい淘汰の波が押し寄せている(調査対象の「老人福祉・介護事業」は、有料老人ホーム、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業などを含む)。
企業全体の企業倒産はバブル景気時並みの低水準で推移しているが、今年1~10月の老人福祉・介護事業の倒産は前年同期比34.7%の増加だった。一方、負債総額は54億2500万円(同17.3%減、同65億6700万円)と前年同期を下回っている。負債10億円以上の大型倒産がゼロ(前年同期1件)だったのに対し、負債5000万円未満が42件(前年同期比50%増、前年同期28件)と増加し、小規模企業の倒産が大半を占めた。
内訳をみると、「訪問介護事業」が25件(前年同期比19%増、前年同期21件)、施設系のデイサービスセンターを含む「通所・短期入所介護事業」が24件(同118.1%増、前年同期11件)と倍増。ここ数年で新規参入した事業者の倒産が相次いでいるようだ。
業態別では、事業所の解体・消滅である「破産」が60件と、全体の9割以上を占めた。一方、再建型の「民事再生法」は2件にとどまり、業績不振の事業所の再建が難しいことを物語っている。
近年、老人福祉・介護事業は“高齢化社会の有望業種”として期待され、新規参入が相次いだ。ここにきて倒産が増加している背景には、介護事業への熱意はあっても、経営は全くの素人で経営能力に欠ける事業者が少なくないことも要因のひとつ。東京商工リサーチによれば、「本業不振の穴埋め」や「経営の多角化」を目指して異業種から安易に参入した業者が、経営に苦慮するケースもあるという。人手不足が要因で破産した業者も目立つ。介護報酬がマイナス改定された影響は、徐々に経営を圧迫するだろう。今後も「老人福祉・介護事業」の倒産は増加する可能性が高い。(編集担当:北条かや)