昔、「自衛隊は年度予算を使い切るために3月31日に大演習をやる。だから3月31日の夜は日本を攻めるチャンスだ」という笑い話があったが、予算のほとんどを使い果たした今の日銀はその逆。TOPIXが前場に大きく下げても、後場にETF買い入れ発動のスクランブル発進ができなくなってしまった。援護射撃のバズーカ砲が撃たれなければ東京市場はやられっぱなし。これが日銀ではなく自衛隊だったら「予算枠の都合で撃つタマがありません」では国家存亡の危機に直面する。
日銀のETF買い入れについては、「中央銀行がPKO(株価維持政策)をやってもいいのか?」という批判もあるが、白川総裁時代の2010年12月に始まってから5年も経過すると、それはマーケットにとって「あって当たり前のもの」「ないと困るもの」になってしまった。そのため、ETF買入枠が残り少ない問題が浮上した10月の2回の日銀会合、11月の日銀会合では本格的な追加緩和とは別に「年末までのETFの買入枠を拡大するのではないか?」という「プチ緩和」の期待も出たのだが、結果は現状維持で全く手をつけなかった。黒田総裁の「市場との対話を重視する」という言葉とは裏腹に、マーケットと日銀の間には、深くて暗い河がある。
前々週の11月30日、黒田総裁は名古屋で「まず行動すべきは日銀だ」と大見得を切った。だが、買入枠が事実上、底をついてしまった今となってはもう、「頑固一徹」も「知らぬ顔の半兵衛」も貫くわけにはいかないだろう。もし「年末まで我慢してください」だったら、日銀に対する世界の信認はゆらぐ。今週17~18日の日銀会合については、利上げ確実とみられる15~16日のFOMCの直後でもあり追加緩和期待は影をひそめたが、ETF買入枠の問題で何らかのアクションを起こすのか、それとも18日の記者会見で黒田総裁が言及してどんな説明をするのか、ぜひとも注視したい。
もし、買入枠手直しのような「プチ緩和」が出たら、マーケットと日銀の冷めた関係は改善し、18日後場の東京市場には見直し買いが入るだろう。しかし大引け後の記者会見で黒田総裁がリップサービスをしても、その時には今週の取引は終わっている。口ではなく態度で示さなければならない。
そんな期待も込めながら11日の日経平均終値19230.48円のテクニカル・ポジションを確認しておくと、25日移動平均の19659円も200日移動平均の19494円も5日移動平均の19353円も、その上にある。75日移動平均の18743円だけは飛び離れて下。ボリンジャーバンドでは25日線-2σの19155円と-1σの19407円の間で、そのゾーンの下の方。-3σは18903円に、+1σは19911円に位置する。日足一目均衡表の「雲」は18486~18711円。これは11日と12日の間で大きくねじれた。「雲のねじれは変化の兆候」と言われるが、今週の雲の上限は18879~18962円、下限は18292~18319円であまり動かない。上限は年末にかけて19000円を突破し、年明け大発会後の1月5日に19593円まで上昇する。大納会までに2万円に乗せて今年を終われと、雲も催促している。
前々週の379円安、前週の274円安で、11日時点のオシレーター系指標には「売られすぎ」シグナルが出現している。-85.3で売られすぎの目安の-50を割り込んだRCI(順位相関指数)と、9.9で売られすぎの目安の30を割り込んだストキャスティクス(9日・Fast/%D)の2本だ。それ以外は、25日騰落レシオは102.4%、25日移動平均乖離率は-2.2%、RSI(相対力指数)は35.4、サイコロジカルラインは5勝7敗で41.7%、ボリュームレシオは42.5で、全般的に低い。
需給の数字が「ご破算で願いましては」になるメジャーSQを通過したばかりで、今週の予想ではあまり参考にはならないが、需給も確認するとSQ週の前週の大波乱にはそれなりの根拠があった。
東証が発表した11月30日~12月4日の週の投資主体別株式売買状況を見ると、外国人は7週連続で買い越し、買越額は前の週の7億円から大幅に増えて779億円。個人は10週ぶりに買い越し、230億円の売り越しから560億円の買い越しに転じた。信託銀行は2週連続の買い越しで買越額は前の週の247億円から1013億円に増加した。そのように「需給三国志」の3者全て買い越しという異変が起きていた。信用倍率は4週連続で低下し7.74だったが、裁定買い残は10週連続で増加し3兆6306億円で、「破竹の12連騰」の直後で3兆7640億円だった6月5日以来のハイレベルに達していた。それが前週、一気に裁定解消に動いて日経平均は19000円割れ寸前まで下落した、というわけである。
では今週も前週同様、19000円は死守できるのか? 残念ながら為替の円高が120円台まで進行し、今週の基点になる11日のCME先物清算値は18680円で、取引時間前発表の日銀短観の結果を待つことなく19000円割れを覚悟しなければならない。12月のSQ値18943円は良い方の「まぼろしのSQ」になったがサポートラインにはならず、日足一目均衡表の雲の上限(11日は18711円、今週は18879~18962円)付近までの下落は致し方ないところだろう。東京市場は泣く子と円高には勝てない。
一方、上値のほうは、FOMCの利上げはほぼ「既定路線」になり為替、株価への影響はすでに織り込み済みで、日銀会合の結果待ちで上値が抑えられるため、テクニカル指標は反発できる可能性を示していても、日銀会合が金融政策現状維持なら25日移動平均線の19659円あたりまで上昇できれば上出来だろう。年末までの2万円台回復は、大きなイベントを通過した来週以降の値動き次第とも言えそうだ。
今週はなぜ、ここまで弱気に傾かねばならないかというと、12月に入ってから「原油安-アメリカの株安-為替のドル安-円高-日本株安」という連鎖が断ち切れないからである。「アメリカの利上げ-ドル高-円安-日本株高」という連鎖はすでに織り込み済みで日経平均は2万円タッチを達成してしまい、それが今、逆回転している。為替の円高が一気に円安に転換し、日経平均が一気に2万円に乗るには、17~18日の日銀会合でプチ緩和ではなく本格的な追加緩和に踏み切る必要があるが、その可能性は低いだろう。
というわけで、今週の日経平均終値の変動レンジは、途中で大きなリカバリー局面があったとしても18700~19650円とみる。
それでも、秋の「17000~18000円台ワールド」の低迷が再び繰り返されるのかと悲観的になる必要はない。海外はともかく、国内経済はマクロ経済指標が意外に底堅く、足元の企業業績も良く、政策も補正予算だけでなく本予算の話もこれから出てくる。参議院選挙はもう半年後。為替レートが反転すれば円安は全てを癒す。もうすぐ年も改まる。過去はもう忘れていい。「ふりむくな、ふりむくな、うしろには夢がない」(寺山修司)(編集担当:寺尾淳)