株式市場2015年の振り返りと2016年の展望

2016年01月06日 09:00

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「2万円」という数字が、2015年の株式市場の中心にあった。選挙イヤーの2016年は、「停滞の3年間」の最初の年になる。

 ■2016年は新しい「大回り3年」の最初の年

 兜町には「小回り3ヵ月、大回り3年」という言葉がある。

 2012年11月14日夕方、国会の党首討論で野田前首相が安倍自民党総裁に「解散、総選挙しましょう」と言い放ったことに端を発する東京市場の「アベノミクス相場」は、2015年11月15日でまる3年。その2012年の総選挙後の第二次安倍内閣の成立から2015年12月26日でまる3年経過した。2012年11月14日の日経平均終値は8664円だったが、2015年の大納会(12月30日)の終値は19033円で、3年で2.19倍になっている。これが「アベノミクス相場の大回り3年」の結果だ。

 それが2016年には切り替わって「ポスト・アベノミクス相場の大回り3年」が始まる年になる。とは言っても日経平均がいきなりどんどん下落するわけではなく、大きく上がりもせず、大きく下がりもしない停滞の3年間の始まりになる。構造的には上げ要素と下げ要素が四つに組んだ「勢力均衡」で、1年間のスパンで眺めれば株価の動きは小さくなる。そんな状況が向こう3年間、2018年まで続くのがこの「大回り3年」である。

 政治の世界は、2016年はいろいろある。アメリカでは現職のオバマ大統領の退任後の座を争う大統領選挙があり、11月8日が投票日。日本では5月26日からのG7伊勢志摩サミットが終わった後、6月か7月に参議院選挙が行われる。それに解散・総選挙を合わせてくるのではないかという衆参ダブル選挙の噂も飛び交っている。

 しかし経済の世界は2015年中、さまざまなことに区切りがついた。ギリシャの債務問題は6月に一応決着し、今は誰も話題にしなくなった。TPP交渉は10月に大筋合意した。アメリカの利上げは12月になってようやく実施された。日銀の追加緩和は本格的には行われなかったが、黒田総裁は「しなければならない時には思い切ったことをやる」と言い、12月の「プチ緩和」は「補完措置」で本格緩和の準備だとほのめかしている。あとは2016年中に「FOMCはいつ追加利上げをするか」「日銀はいつ本格的な追加緩和をするか」という、タイミングの問題になる。

 特に、アメリカの追加利上げは経済のフェーズが変わる意味あいを帯びている。たとえば今まで低金利の先進国から高金利の新興国に向かっていたマネーの流れが、逆流し始めるきっかけを提供するかもしれない。その結果、もたらされるのはドル高、新興国通貨安だが、アメリカの追加利上げのペースに日銀の追加緩和のペースが追いつかなければ、円の独歩高、相対的なドル安、ユーロ安、新興国通貨は円から見れば格安という、日本経済にとって苛酷な為替マップが出現する。それが顕在化したら、日本株には重大なファンダメンタルズ上の「構造的な問題」になる。

 ■為替も企業業績も経済指標も停滞する1年

 そこまでいかなくても、新しい「大回り3年」への切り替わりは、これまで3年間の「円安・株高」のトレンドが「円高・株安」に切り替わる潮目になりうる。まるでその予兆のように、円安の進行は2015年、大幅にペースダウンした。年末のドル円レートの終値は、2012年末は86.74円で、2013年末はそれより18.56円(21.4%)円安の105.30円、2014年末はそれより14.38円(13.7%)円安の119.68円だった。ところが2015年末は120.30円で、1年間で0.62円(0.52%)しか円安が進まなかった。アベノミクスの大回り3年のトータルでは33.56円、38.7%の円安だったが、2015年はその円安がわずかしか進行せず、明らかに頭打ちになっていた。

 「為替がもうこれ以上、円安にならない」というのは、株価を支えている企業業績にもマクロ経済指標にも当然、影響する。円安メリットが出なくなれば輸出産業の利益は抑えられる。すでに新興国の通貨安で業績が伸び悩む企業が出ているが、この先、ドル円レートまで停滞すれば、自動車関連のように今は北米市場で稼いで好調な企業の業績にも影を落とすようになる。業績見通しが営業減益ではなく横ばいであっても、営業増益が続くのを期待して上がっていた株価は、下がる。

 為替の影響で生産が頭打ちになれば、製造業の生産指標は悪化する。財界首脳あたりが「円安トレンドは終わった。これからはガマンの時代になる。賃上げもそれ相応のペースで」と言い出したりすると雇用・賃金の指標も悪化する。時間差を伴って非製造業や消費関連の経済指標も悪化したら、株価全体にとって大きな下げ要因になる。

 そのため、企業業績は2016年3月期がピークになり、マクロ経済指標は2016年の前半にピークをつけると予測する。5月、各企業から発表される2017年3月期の業績見通しが保守的なものばかりなのを見て「なんだ、こんなものか」と失望して日経平均が下落する「5月危機」がやって来るかもしれない。さらに、その頃までに原油先物価格が反転して上昇し始めたら、株安に拍車がかかる。その後は「ピークアウト」の停滞局面がやってきて、2017年4月の消費増税も意識される。株価もそれに影響されるだろう。

 ■政策でテコ入れされても回り回って元通りに

 もちろん、株価は為替レート、企業業績、マクロ経済指標だけでは決まらない。今年は国政選挙がある年なので「政策」も重要なファクターになる。「一億総活躍」など「アベノミクス第2ステージ」の諸政策への期待、法人減税や、あるいは補正予算のような経済対策にテコ入れされ株価が上がることもあるだろう。追加緩和のような日銀の金融政策もそれとリンクしそうだ。

 しかし、もし、7月の参議院選挙(衆参ダブル選挙?)で野党が健闘をみせて、安倍内閣の与党が今までのように大勝できなかったとしたら、アベノミクスは賞味期限がきて、マーケットの政策期待のトレンドははっきり切り替わる。これも一つのリスクだ。それ以外にも、たとえば金融庁が音頭を取って進めている大手銀行の「持ち合い解消売り」や4月の電力小売自由化後の成り行きなど、マーケットのリスク要因は国内にゴロゴロしている。2015年の新語・流行語大賞の「爆買い」で潤ったインバウンド消費も、その中心をなす中国は「ある日突然、一変することがある経済」なので、為替変動や中国政府の政策変更や事件・事故のような何かをきっかけに「突然死」するかもしれない危うさをはらむ。小売業の一部にみられるインバウンド消費への過度な依存は、悲劇を生みかねない。

 日本はまだ平和だが、海外要因となると、これはもう予測不能なカオス。周辺国との関係をこじらせる中国の外交姿勢も、ヨーロッパの難民問題も、8月のリオ五輪後のブラジル経済も、11月8日投票のアメリカの大統領選挙の行方も。原油安はこれ以上は進まないと思われるが、どこの国で過激な政策を振り回す政権が誕生するかわからない。どこの国で隠れた債務問題が表に出るかわからない。地政学的リスクも、どこで凄惨なテロが起きるかわからない。どこで領土問題や宗教をめぐって戦争や内戦が起きるかも、わからない。

 2016年は、特にその後半は、さまざまな不確定要素と不安にさいなまれた停滞の年になる。ということで、日経平均の年間変動予想レンジは17000~21000円。年末の大納会は19000円前後とみる。満ち潮や引き潮の時期はあっても、回り回ってほぼ元通りになると予想する。(編集担当:寺尾淳)