iPS細胞は日本経済をも治療してくれる?

2013年01月27日 21:36

  今、世界の医療分野で最も期待と注目を集めている研究といえば「iPS細胞」だろう。京都大学の教授であり、同大学のiPS細胞研究所所長を務める山中伸弥氏が、2012年度のノーベル生理学・医学賞を受賞し、日本中が「iPS細胞」の話題で沸いたことも記憶に新しい。

  山中教授がノーベル賞を受賞したことで、世間一般的にも「iPS細胞」の存在と研究意義が知れ渡り、再生医療の切り札とされる「iPS細胞」の関連事業を立ち上げる企業も続々と現れはじめた。文部科学省では、移植を伴う本格的な医療への応用と実用化が行われるのは2020年代以降になると予測しているが、それでも癌治療や脳疾患治療をはじめとする難病治療への期待が否応なしに高まっている。

  また、この分野では海外諸国に比べて日本が一歩も二歩も先んじており、「ⅰPS細胞」関連事業は、日本の医療ビジネスにとっても救世主となるかもしれない。山中教授も受賞後の会見で開口一番「日の丸の支援がなければいただけなかった。まさに日本国が受賞した」と述べ、「日の丸を背負った学者」を自称していることで、世界的にも日本が「iPS細胞」先進国と認知された。

  実際、日本のiPS細胞研究は世界をリードしている。山中教授のiPS細胞基本特許は日本では08年に、欧州では11年に成立しており、また11年末における日本からのiPS関連特許は約180件出願されており、そのうち12件が日本、米国、EU、英国、南アフリカ、シンガポール、ニュージーランド、イスラエルにおいて、特許として成立しているのだ。

  とはいえ、iPS細胞の実用化に向けては、いくつかのハードルはある。厚生労働省は今後の課題として、均一性と安全性などの品質の確保、そして「がん化」の可能性を排除すること、さらにとくにES細胞における生命倫理上の課題などを挙げている。

  また、政府は「再生医療の実現化プロジェクト:再生医療の実現化ハイウェイ」を平成24年度アクションプラン「再生医療研究開発」の対象施策として特定した。これにより、短期的には「iPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変性治療の開発」(独立行政法人理化学研究所)「滑膜幹細胞による膝半月板再生」(国立大学法人東京医科歯科大学)、「培養ヒト角膜内皮細胞移植による角膜内皮再生医療の実現化」(公立大学法人京都府立医科大学)、「培養ヒト骨髄細胞を用いた低侵襲肝臓再生療法の開発」(国立大学法人山口大学)を今後3年以内で臨床研究への到達を目指すことを目標としているほか、中長期では、今後5~7年以内に「iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発」(国立大学法人大阪大学)、「iPS 細胞を用いた再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の確立」(慶應義塾大学)、「重症高アンモニア血症を生じる先天性代謝異常症に対するヒト胚性幹(ES)細胞製剤に関する臨床研究」(国立成育医療研究センター)「パーキンソン病に対する幹細胞移植治療の実現化」(国立大学法人京都大学)などの分野で臨床研究への到達を目指す。

  これらの施策を文部科学省・厚生労働省・経済産業省との緊密な連携の下で、産学官が連携して研究開発を行い、適切な知財戦略、国際標準化戦略に基づいて推進していく。これが順調にいけば、日本はiPS先進国として確固たる地位を獲得するだろう。経済に対する影響も計り知れない。

  しかし、日本にはもう一つ大きな課題がある。それは、医療制度や体制の問題だ。また学者独特のムラ社会的な学会の仕組みも、日本の医学研究の大きな障壁となっている。

  山中教授も内閣府を訪れた際にこう語っている。「日本では創造的な仕事をしていることが正当に評価されず、それよりも「話がうまい」とか、「どの研究室の出身か」とか、そういう本質とは関係のないことで評価される。やる気のある若い人にきちんとチャンスが与えられる環境づくりが必要だ」また「欧米では、たとえノーベル賞の受賞者でも、その後に業績が出ないと隅に追いやられる。日本も昔すごいことをしたから、その身分が永遠に保障されるというのはやめるべきだ」と政府に訴えた。

  山中氏自身の自戒の念も込めての発言だと思うが、なにも医学会に限らず、こういった陰湿な体制や、年功序列が尊ばれ、過去の業績の呪縛に縛られている様は日本の社会のいたるところで見受けられる。

  今後、安倍政権が進める医療制度の規制緩和によって、iPS細胞の研究がグローバルに展開し、日本の医療のカンフル剤となれば、iPS細胞は日本社会の古い癌的な体質も改善してくれることになるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)