【電力大手の4~12月期決算】燃料費が下がっても、原発再稼働でさらに収益を改善し、値下げで新電力に対抗する考え

2016年02月07日 20:40

 1月29日、電力大手3社(東京電力<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>)の4~12月期(第3四半期)決算が出揃った。

 電力10社は、関西電力、九州電力<9508>、北海道電力<9509>が5年ぶりに黒字転換して、4~12月期の経常損益は全て黒字化した。4~9月期と比べてさらに利益が拡大し、10社合計の経常利益は東日本大震災、福島第一原発事故前の2010年4~12月期を上回っている。その要因は原油安に伴ってLNG(液化天然ガス)価格が前年同期比で4割を超える下落をみせたことだが、九州電力<9508>については昨年8月に川内原発1号機、昨年10月に同原発2号機が再稼働したことで火力発電所の燃料費が減少し、損益がさらに改善している。原発の再稼働は440億円の利益押し上げ要因になったという。原発はLNG火力よりも発電コスト(核燃料などの変動費ベース)が2割以上低い。

 ■昨年6月の値上げも寄与し関西電力は黒字に

 4~12月期の実績は、東京電力は売上高8.8%減、営業利益54.8%増、経常利益92.1%増、四半期純利益は87.9%増の減収、大幅増益。経常利益4362億円は4~12月期としては最高益を更新している。増益の要因はLNG火力発電の燃料費が大幅に低下したこと。それを反映した電気料金の値下げは2月からでタイムラグを伴うため、その間は利益幅がふくらむ見込み。

 中部電力は売上高5.9%減、営業利益282.6%増(約3.8倍)、経常利益966.7%増(約10.6倍)、四半期純利益418.0%増(約5.1倍)と、前年同期比の増益幅が4~9月期からさらに伸びている。東京電力と同様に原発が再稼働しておらず主力電源がLNG火力発電なので、燃料のLNG価格の低下が増益に大きく貢献している。

 関西電力は売上高3.7%減、営業損益は前年同期の666億円の赤字から1803億円の黒字に転換、経常損益は前年同期の779億円の赤字から1714億円の黒字に転換、四半期純損益は前年同期の666億円の赤字から1123億円の黒字に転換した。燃料費の低下に加え、昨年6月に家庭向け電気料金を再値上げした効果も出て、損益が黒字転換した。

 ■中部電力は通期利益見通しをさらに上方修正

 東京電力の2016年3月期の通期業績見通しは未定。年間配当予想は前期と同じく無配の見通し。見通しを出せない理由としては全機停止している柏崎刈羽原発の運転計画を示せないことに加え、電力小売自由化を控え、電力システム改革をふまえたホールディングカンパニー制への移行に際し、「厳しい競争に勝ち抜く経営基盤の構築、財務体質の改善を検討していること」を挙げている。

 中部電力は昨年10月に通期業績見通しを上方修正したが、今回は売上高を下方修正、利益項目を上方修正した。売上高を200億円減らして6.9%減から7.5%減に下方修正。営業利益を300億円上積みして114.6%増から142.6%増(約2.4倍)に、経常利益を300億円上積みして232.2%増から282.0%増(約3.8倍)に、当期純利益を150億円上積みして260.9%増から299.5%増(約3.9倍)に、それぞれ上方修正した。期末配当予想も5円上方修正して15円とし、年間配当予想を前期から15円の増配の25円とした。

 関西電力は4~9月期決算発表の時点では、通期業績見通しは売上高の前期比1.4%減だけを公表していたが、今回は利益見通しも含めて全て公表した。売上高は3.1%減、前期は786億円の赤字だった営業損益は2600億円の黒字、前期は1130億円の赤字だった経常損益は2450億円の黒字、前期は1483億円の赤字だった当期純損益は1500億円の黒字に転換する見込み。八木誠社長は決算発表時の記者会見で「来年度のできるだけ早い時期に値下げしたい」と発言し、黒字を契約者に還元する姿勢を明らかにした。

 高浜原発3号機がすでに再稼働し2月中に営業運転を再開する予定で、同原発4号機も3月下旬の営業運転開始を目指している。10電力の中で最も原発依存度が高かった関西電力は、期末の3月に福島第一原発の事故が起きた2011年3月期以来、5期ぶりに黒字転換する見込み。しかし期末配当予想、年間配当予想は、「原子力プラントの再稼動状況等を見極めて判断する必要がある」という理由で未定となっている(前期は無配)。

 ■4月からの小売自由化で新電力に対抗できるか?

 電気料金には「燃料費調整制度」があり、LNG価格など燃料費の減少はタイムラグを伴って徐々に電気料金に反映されるしくみだが、3月までの今期いっぱいは、電力各社は燃料安の恩恵で利益が拡大できそうだ。

 しかし、来期は「電力小売完全自由化」が4月1日から始まるという大きな変化が待っている。関西電力が高浜原発の再稼働を急いだ背景、八木社長が来期早々の値下げをアピールした背景には、それもある。昨年6月に値上げした電気料金が高止まりしたままでは、大阪ガス<9532>をはじめ新電力各社にシェアを食い荒らされる恐れがあるからだ。

 その4月の電力小売自由化に向けて、電力大手も新電力各社も料金体系やサービスを公表し、顧客獲得合戦が始まっている。新電力は、電気を仕入れて売るブローカーから、東京ガス<9531>のように2020年までに自前の発電量が沖縄電力<9511>を超える計画を持つところまでさまざまだが、迎え撃つ電力大手はそれに対抗して競争力を維持できるかどうかが、来期の業績を大きく左右しそうだ。原発の再稼働がままならない電力会社が対抗値下げの原資を捻出したければ、さらなるコスト削減も必要になるだろう。(編集担当:寺尾淳)