都市圏から地方都市へ。全国に広がる多層階住宅化の波

2016年02月13日 19:15

 戸建て住宅市場で今、一つのブームが起こっている。それは「多層階住宅」だ。伝統的な日本家屋は木造の平屋か2階建て。しかし、よくよく考えてみると、ただでさえ狭い日本の土地を有効活用しようとしたら、高層マンションや多層階住宅の方が風土的に適しているといえるのかもしれない。

 そして、2015年に施行された相続税の改正が追い風になった。これまで、戸建ての多層階住宅は3階建てかせいぜい4階建てまでだった。しかし、ここ数年で、5階以上の高層戸建て住宅が続々と登場している。

 多層階住宅のメリットは、何といっても限られた土地を有効利用できる点にあるだろう。とくに、好立地だが狭小地が多い都心部では、二世帯住宅や賃貸・店舗併用住宅として活用できる多層階住宅に注目が集まっている。

 もちろん、デメリットもある。多層階になれば、その分建築コストもかかる。また、階間の移動に負担があるため、ホームエレベーターを設置するプランを検討しなければならない。そういう点で初期費用がかさむことになる。

 また、かつて上層階は、夏場は暑く冬場は寒いといわれたこともあったが、最近では技術革新が進み、そうした課題は既に解決しているという。

 では、どれだけ多層階住宅は進化しているのだろうか。

 面白い例としては、最近は鉄骨住宅に限らず、木造住宅でも多層階住宅が登場していることだ。余談だが、現在、海外では環境面やコスト面で木造ビルが注目されているらしい。カナダのバンクーバーでは30階建ての木造高層ビルの建築計画が発表されたり、スカンジナビアの企業がストックホルムの住宅設計コンペで34階建ての世界最高の木造建築の提案を発表するなど、木造ビルの高さを競うブームが起こりつつあるようだ。

 日本でも、住友林業などが、防火地域に対応する耐火構造の木造4階建て住宅を展開している。

 鉄骨では、例えば大和ハウス工業<1925>も、2013年から5階建住宅商品「skye(スカイエ)」を展開して人気を得ている。従来の住宅用重量鉄骨ラーメン構法よりも、柱や大梁に複数のサイズを用意することで多様なプランに対応でき、同社の人気商品の一つになっている。

 そんな中、現在、日本のハウスメーカーで最も多層階住宅に積極的なのがパナホーム<1924>ではないだろうか。同社は3階から7階建ての住宅を展開しているほか、柔軟な設計対応力を駆使して、二世帯住宅や賃貸・店舗併用住宅のくらしを多彩に提案するなど、近年の住宅メーカーの多層化競争を牽引している。

 同社が、2011年9月から発売している多層階住宅「Vieuno(ビューノ)」は、首都圏を中心に着実に受注を伸ばしてきた。また、2014年4月には、工業化住宅で、最も階数の多い7階建の「Vieuno7(セブン)」の発売を開始。「Vieuno」の受注は、2015年4月~12月において対前年120%台で伸長している。

 また、首都圏だけでなく、東日本大震災以降、被災地からの人口流入で住宅市場が活性化している宮城県仙台市においても「Vieuno」の拡売を図り、2015年9月には、同社として全国で初めてとなる6階建の物件が完成した。

 同社によると、仙台市では3~6階建の「Vieuno」の受注が着実に増えている。仙台の敷地事情(広めの敷地)を反映し、首都圏に比べ大型の物件が多いという。近年、住宅の新築において、建築資材や人件費の高止まり等により建設費が高騰する傾向が続いている中、「Vieuno」は、高品質・安定コスト・短工期・高耐震による工業化住宅の強みを武器に、地方都市の住宅需要を開拓していくに違いない。

 多層階住宅は、今後、東京・大阪・名古屋をはじめとする大都市圏だけでなく、地方都市の住宅需要を的確に取り込んで、ますます増えていくのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)