撮った写真がすぐにプリントできる富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」。1998年に発売されるとすぐに一大ブームを巻き起こした。しかしその後人気は下火になり、2002年に100万台を誇っていた売上げは04年には10万台に急減。廃番になるかともささやかれていたがなんと現在、その売上げは年間500万台に迫る勢いだという。チェキに何が起きたのか。
1998年以前にもイスタントカメラは存在していた。しかしフィルム代が1枚あたり200円と高価で、なかなか普及しなかった。そのような中フィルム代が1枚あたり80円のチェキが登場、一回400円のプリクラになじんでいた女子高生を中心にヒットした。
だが、安価で現像が不要なデジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及で販売台数が急減。2005年には新機種の開発を休止し、既存商品の色展開を増やして販売を継続した。そして同社は次の成長事業を医薬品や化粧品などにシフト、チェキは商品存続の危機を迎えていた。
転機は07年、韓国のテレビドラマの小道具として使われたことだった。ドラマを見た人たちの間で話題になり、「好きなタレントが使っている商品を自分も使いたい」と、10~20代の女性を中心に韓国でチェキの需要が沸騰した。「服やファンシーグッズを買うのと同じ感覚でチェキを購入していました」と関係者が語るように、カメラというよりファッションとしての要素が強かった。
その後、中国でも有名ファッションモデルがブログで「私もチェキを使っている」と書いたことをきっかけに購入者が急増。富士フイルムは当初460万台としていた15年度の販売台数を500万台に上方修正。そのうち約9割を海外が占めている。そしてアジアだけでなく、欧州や北米での展開も本格化。9月には約11億円をかけて生産能力を増強することも発表した。
「チェキの魅力は、その場ですぐにリアルなプリントが得られ、デジタルとは異なる『現物感』のあるコミュニケーションが生まれることです」と同社。その写真は縦8.6cm、横5.4cmの名刺サイズで、柔らかな独特の雰囲気を持っている。そして最大の特徴は、コピーや焼き増しができないためどの写真も「世界でただ1枚」であることだろう。デジタル全盛の世の中、意外なところで人気を誇るチェキが持つ価値は、逆に新鮮なのかもしれない。(編集担当:久保田雄城)