官民対話では2020年までに農機の無人運転を実現する目標が表明されたほか、生産資材の価格低減や農業関連の流通構造改革なども打ち出された。いずれも環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)発効を見据えたものだ
政府が情報通信技術(ICT)を活用して農業生産の効率化を図る制度の整備に着手する方針を固めた。安倍首相ら閣僚や経済団体トップ、企業経営者らが出席して4日に行われた「未来投資に向けた官民対話」で明らかにされた。無人自動走行トラクターなどを活用して農業の生産性を向上させることなどが含まれている。ITの力を活用して、農業の現場に山積する担い手不足や高齢化などの問題をカバーしていく。
農業とICTの連携の動きは少しずつ広がっている。代表的な例はウェブサイトでの農作物の直販だろう。既存の流通を使わずインターネット経由で生産者と消費者とが直接取引をするものだ。これにより流通コストを削減できたり、よりスピーディーなマーケティングを行ったりすることができる。他にも直売所での販売時に二次元コードを読ませることで売り上げ状況をリアルタイムで生産者にメールで届けたり、酪農家の厩舎に監視カメラを設置してネット上で視聴できたりと、活用の幅は広い。
この分野にはベンチャー企業の参入も目立つ。東京大学発のベンチャー企業「ベジタリア」のグループ会社ウォーターセルは、農作業記録用のクラウドシステム「アグリノート」を開発・販売している。年間3万9800円という比較的安価な導入費用も相まって、現場での認知度も向上してきている。このシステムは作業の記録を専用フォームに入力して圃場全体の現状を可視化することで、作業効率の向上を目指すもの。Googleマップなど航空写真の上に自分圃場をマーキングしてマップ上に直接情報を書き込めるのが特徴で、圃場数が多い生産者が自分の畑を一元で管理することができる。
実際に導入した農家では、圃場を間違えて耕してしまったり、必要な工程をとばしてしまったりする作業ロスを大幅に減らすことができた。何より畑にタブレット端末を持って行く習慣ができたことで、少し離れた場所で作業している仲間と目の前の現状を報告し合ったり、作物の写真を送り合って確認したりというコミュニケーションを密にとるようになる効果があった。
とはいえ、家族経営の小規模な農家では、情報のやり取りは口頭で済んでしまうし、記録を取っておく必要も感じにくい。知識や経験が豊富なベテラン農家ほど未知のICTに投資して失敗するリスクを恐れてしまう可能性もある。農業ICTの成功例を増やすことが、こうした既存農家の意識改革につながっていくかもしれない。(編集担当:久保田雄城)