近年、住宅業界ではリフォームやリノベーション事業が盛んに行われるようになってきた。市場調査会社の矢野経済研究所が発表した「住宅リフォーム市場に関する調査結果 2015」によると、住宅リフォーム市場は今後、主要分野である「設備修繕・維持費」分野が住宅ストックや世帯数の増加に伴って増加し、市場全体が拡大することが見込まれ、2020年の市場規模として、2014年の6.7兆億円比約9%増となる7.3兆円を予測している。
リフォーム事業が拡大傾向にある理由はいくつか考えられる。まず、日本の住宅ストック数が現在、全世帯数を上回る状況にあるということが大きいだろう。日本人特有のもったいない精神もあるのか、わざわざ新築を購入しなくても、既存の建物を有効に活用したいと考える人が増えているのだ。古い町家が数多く残る京都でも、空き家になった京町家をリフォームやリノベーションをして、販売したり、賃貸物件にしたりするのが流行っている。日本人のみならず、外国人の入居者も多いようだ。また、最近の傾向として、飲食を家庭で楽しむ世帯が増えていることもリフォーム事業の追い風になっているようだ。自宅で家族と共に過ごす時間が増えたことで、自宅をより快適にしたいという欲求が高まっているのだろう。さらに、それらに加えて「リノベーション」という言葉の響きも、これまでの「改築」や「修理」、「リフォーム」などに比べてオシャレで若者世代の受けも良いようだ。
実際、リフォームとリノベーションに厳密な定義の違いは存在しない。言葉の使い分けは感覚的で、あえていうなら、リノベーションはリフォームの中でも古い建物のよさを活かしながら、その中に最新の設備や現代的なデザインを投入することにより、物件に新たな付加価値を生み出そうとするようなリフォームに用いられることが多い。そもそも、リフォームという言葉自体が和製英語であり、英語圏で日本のリフォームを指す言葉は、まさにリノベーションなのだ。また、リフォームという言葉を用いる場合は、クロス一枚の張り替えから大規模な増改築まで広義で用いられることが多いようだ。
ともあれ、今、大手、中小を問わず、リフォーム事業に力を入れる企業が増えている。例えば、昨年12月、パナソニック<6752>は、リフォーム事業を展開するパナホーム<1924>の100%子会社「パナホーム リフォーム株式会社に新たに49%を出資(第三者割当増資)。今年4月には、同社の社名を「パナソニック リフォーム株式会社」に変更する。併せて、グループのリフォーム事業におけるブランドを「Panasonicリフォーム」に統一、新しいCIのもと広告宣伝や店舗看板など販売促進政策を一本化することで、リフォーム事業を拡大することを発表している。
また、経済産業省が2月6日に発表した「平成26年度先進的なリフォーム事業者表彰事業者」では、独自のビジネスモデルでリフォーム市場の拡大に貢献する21社が選出されたが、パナソニック株式会社エコソリューションズ社や住友不動産株式会社<8830>などの大手企業にならんで、神奈川県の建設業者の株式会社さくら住宅や、大阪府の株式会社ナサホーム、京都府の不動産業・株式会社八清など、地元密着の中小業者も名を連ねている。
少子高齢化社会に突入した日本の住宅事情において、今後ますます、リフォームやリノベーションの占める割合は大きくなることが予想できる。また、持ち家至上主義が以前ほど絶対的ではなく、賃貸需要も増えつつある今、消費者の住まいに関する多様なニーズに対応するリフォームやリノベーションを行うことは、賃貸業者や物件のオーナーにとっても必要な選択肢となってくるだろう。(編集担当:藤原伊織)