理研がマウスiPS細胞から皮膚器官系の再生に成功 皮膚の再生や脱毛症治療に期待

2016年04月20日 09:45

 理化学研究所(理研)の研究グループが、マウスのiPS細胞から皮膚器官系の再生に成功した。理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー(東京理科大学客員教授、北里大学医学部客員教授、東京歯科大学客員教授)、オーガンテクノロジーズの杉村泰宏社長、北里大学医学部の武田啓主任教授、佐藤明男特任教授、東北大学大学院歯学研究科の江草宏教授らの共同研究グループは、マウスiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ「皮膚器官系」を再生する技術を開発したと発表した。

 皮膚は生体を防御するほか、汗の排せつなどの機能があり、生体の恒常性維持に重要な役割を担っている。皮膚には、毛包や皮脂腺、汗腺など複数の皮膚付属器が存在し、上皮層や真皮層、皮下脂肪層を持っており、皮膚器官系として3次元的に複雑な構造をしている。皮膚に関わる疾患は、外傷や熱傷、先天性乏毛症、脱毛症、分泌腺異常など数多く知られている。しかし、皮膚器官系が複雑なために皮膚の完全な再生はいまだに実現していない。共同研究グループは、皮膚疾患に対する新たな再生治療法を確立するため、iPS細胞から皮膚器官系を形成する技術の開発を目指した。

 共同研究グループは、マウスiPS細胞から胚葉体(EB)と呼ばれる凝集塊を形成させ、この凝集塊を複数個合わせてコラーゲンゲルに埋め込み、マウス生体へ移植してさまざまの上皮組織を形成する「Clustering-Dependent embryoid Body:CDB法」を開発した。この移植物内部には、上皮層や真皮層、皮下脂肪層、毛包や皮脂腺を持つ天然皮膚と同様の皮膚器官系が再生されていることを明らかにした。さらに、このiPS細胞由来皮膚器官系から毛包を10~20本含む「再生皮膚器官系ユニット」を分離し、別のマウス皮下へ移植すると、移植組織はがん化することなく生着し、神経や立毛筋などの周囲組織と接続して、機能的な毛包を再生することも示した。

 現在世界中で、iPS細胞を利用した再生医療の研究が盛んに行われていている。理研においても、2014年にiPS細胞から作製した網膜細胞のシートを加齢黄斑性変性患者に移植することに成功している。今回、共同研究グループは、CDB法を開発したことによって、iPS細胞から1種類の細胞や1つの器官だけでなく、器官系を一体的に形成することに成功した。今後、ヒトへの臨床応用への発展が期待されるが、そのためには、生体内移植によって移植物が未分化の細胞や他の組織を形成することなく、生体外で皮膚器官系を再生する手法へ発展させることが必要。この研究は、将来、外傷や熱傷に侵された皮膚の完全な再生に加え、先天性乏毛症、深刻な脱毛症、皮膚付属器官に関する疾患の治療法の開発につながると期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)