【自動車部品業界の2016年3月期決算】北米向けが好調で前期はおおむね好決算。しかし今期は円高を想定し保守的な見通し

2016年05月16日 08:18

 5月12日、自動車部品大手7社の2016年3月期本決算が出揃った。連結売上高が約1兆円を超える自動車部品メーカー最大手クラス(一次部品メーカー)のメイン事業はエンジン、電装品、自動変速機、ブレーキ、パワステ、計器、シート、エアコン、車体組立などさまざまだが、共通しているのは完成車メーカーと業績がほぼ連動していること。日本精工(独立系)とカルソニックカンセイ(日産系)を除くトヨタ系の5社(デンソー、アイシン精機、豊田自動織機、トヨタ紡織、ジェイテクト)の動向は、トヨタの世界戦略に組み込まれている。

 2016年3月期の売上高は微増の日本精工も含めて7社全て増収。デンソーは為替の円高の影響が他社よりも早く現れて営業減益、最終減益だったが、それ以外は営業増益、最終増益でほぼ揃った。ベアリングの日本精工の営業減益は産業機械向けが不振だったためで自動車向けは営業増益。トヨタ紡織の最終減益は子会社整理損を特別損失に計上したという一時的な理由だった。全般的にみれば自動車部品業界の前期の業績は好調だった。

 しかし、2017年3月期の業績見通しは各社とも為替の円高を想定して保守的な数字が並んでいる。想定為替レートは、トヨタ系はトヨタ自動車に合わせてドル円105円が揃い、日本精工もカルソニックカンセイも105円。熊本地震の影響で発表を延期したアイシン精機とIFRSの導入で単純比較ができない日本精工を除く5社は減収で、営業増益はカルソニックカンセイだけ。最終利益は前期の反動が出るトヨタ紡織とカルソニックカンセイが増益で、他は減益の見通しを出している。

 「日本車の優秀さの源泉は、優秀な部品メーカーの存在と、それとのきずなの強さ」と海外からも称賛されている。「一蓮托生」で、完成車メーカーに何かがあると、部品メーカーはその影響をもろに受けるが、その逆の事態も起こりうる。4月、5月は、そんな出来事が立て続けに起こった。

 本決算直前の4月に発生した熊本地震では九州の部品メーカーの工場が被災して部品調達に支障をきたし、完成車メーカーが全国的に操業停止を余儀なくされた。トヨタの全ライン再開は5月6日までかかり、ホンダはさらに先になる見通し。一方、同じ4月に三菱自動車の軽自動車の燃費データねつ造問題が発覚し、軽の生産拠点の水島製作所が生産を停止して岡山県周辺の取引先の部品メーカーは苦境に陥っている。ところが、5月12日にその三菱自動車を日産が傘下におさめると発表すると、翌日、日産系部品メーカーのカルソニックカンセイの株価は11.6%も急騰した。

 近年、完成車メーカーは部品調達コストの削減を目的に系列取引の見直しを行っている。昨今の円高はそれを加速させそうで、二次、三次以下の部品メーカーには選別の動きに戦々恐々としている企業がある。また、品質の高さを認められて仕事はあっても、現場の人手不足、管理職の人材不足、トップの後継者難などに悩まされる企業は少なくない。

 ■円高が進行していなかった上半期の〃貯金〃が効く

 2016年3月期の実績は、デンソー<6902>は売上収益5.0%増、営業利益4.7%減、税引前利益6.6%減、当期利益5.8%減、最終当期利益5.5%減の増収減益。利益の項目が全て減益なのは2015年3月期と同じ。年間配当は10円増配して120円とした。中国、ASEANの自動車需要が減速しても当初は最終増益を見込んでいたが、下半期に円高が予想を超えて進行し、想定為替レートを途中で円高方向に修正して最終減益になった。

 アイシン精機<7259>は売上高9.4%増、営業利益6.2%増、経常利益0.8%減、当期純利益25.0%増の増収、最終増益。年間配当は5円増配して100円とした。自動変速機やエンジン関連部品の販売が北米や中国で好調だった上半期の〃貯金〃が効き、税負担の軽減もあり最終2ケタ増益で着地した。

 豊田自動織機<6201>は売上高2.9%増、営業利益8.8%増、経常利益8.5%増、当期純利益58.8%増の増収増益。年間配当は10円増配して120円。北米、ヨーロッパでフォークリフトの販売が伸び収益に貢献した。カーエアコン用部品も好調だったが、エンジンや車体組立は2015年3月期よりも減速している。大幅最終増益の要因は、2015年12月に機械警備と情報資産管理の連結子会社2社を売却して特別利益を計上したため。

 トヨタ紡織<3116>は売上高8.4%増、営業利益83.7%増、経常利益36.6%増、当期純利益25.0%減の増収、大幅営業増益、大幅最終減益。最終減益の要因はヨーロッパの3子会社の全ての株式を売却した事業整理による特別損失を239億円計上したため。年間配当は12円増配して30円。北米での生産は「ハイランダー」などトヨタ車向け中心に高水準。11月にアイシン精機、シロキ工業から事業譲渡を受け、トヨタグループ内のシート部品事業がトヨタ紡織に集約された。

 ジェイテクト<6473>は売上高3.2%増、営業利益10.5%増、経常利益2.4%増、当期純利益14.5%増の増収、2ケタ最終増益。年間配当は8円増配して42円。日本車の販売が堅調な北米、ヨーロッパでステアリング、ベアリングの出荷が伸びた。国内では工作機械が比較的好調だった。

 日本精工(NSK)<6471>は売上高0.0%の微増、営業利益2.7%減、経常利益3.3%増、当期純利益8.4%増の売上横ばい、営業減益、最終増益。年間配当は6円増配して34円とした。主力製品はベアリング。産業機械事業は中国、東南アジアなど新興国でふるわず売上高6.0%減、営業利益18.2%減。自動車事業は日本国内は悪かったが欧米市場は好調、中国も小型車優遇税制が効いて増収となり、売上高4.9%増、営業利益11.7%増だった。

 カルソニックカンセイ<7248>は売上高9.1%増、営業利益21.0%増、経常利益21.6%増、当期純利益12.0%増の増収、2ケタ増益。2015年3月期の最終減益から最終増益に転じ、好調な決算だった。年間配当は2.5円増配して10円。主要取引先の日産<7201>が北米で販売を大きく伸ばしたのに連動してラジエーターなど部品受注が大きく伸びた。日産は自動車生産の国内回帰を進めているため国内でも売上、利益が伸び、売上高は過去最高。営業利益は新興国等の通貨安による為替差損の増加分14億円をカバーして過去最高益を更新した。

 ■今期の想定為替レートはドル円105円が主流

 2017年3月期の通期業績見通しは、デンソー<6902>は売上収益0.5%減、営業利益0.9%減、税引前利益1.5%減、最終当期利益3.8%減の減収減益を見込む。予想年間配当は120円で据え置き。想定為替レートは前期比でドル円が10円、ユーロ円が8円、それぞれ円高に設定し、為替は約600億円の減益要因になる見込み。それでも環境や安全の分野で前期比157億円増の4150億円の研究開発費を投じる予定。

 アイシン精機<7259>は4月の熊本地震で子会社のアイシン九州の工場が被災し、被害額や部品の代替生産コストなどの業績への影響を合理的に見積るのが困難だとして、4月28日の決算発表時点では通期業績見通し、予想年間配当を未定とした。5月中をメドに公表する予定。今期から国際会計基準(IFRS)を任意適用する。

 豊田自動織機<6201>の通期業績見通しは、売上高1.3%減、営業利益6.2%減、経常利益4.5%減、当期純利益34.4%減の減収、大幅最終減益。予想年間配当は120円で据え置き。為替の円高と中国、南米など新興国の不振が減収減益を見込む要因。大幅最終減益は前期の反動。それでもカーエアコン用コンプレッサーの能力増強など前期比約3割増の1000億円の設備投資を予定している。

 トヨタ紡織<3116>の通期業績見通しは、売上高6.1%減、営業利益11.8%減、経常利益6.5%減、当期純利益643.5%増(約7.4倍)。予想年間配当は6円増配の36円とした。円高で減収、営業減益、経常減益を見込む。大幅最終増益は前期の大幅減益の反動。

 ジェイテクト<6473>の通期業績見通しは、売上高7.1%減、営業利益26.8%減、経常利益24.9%減、当期純利益15.8%減の減収減益見通し。予想年間配当は42円で据え置き。前期に円安メリットを大きく受けたので、今期は円高デメリットが大きく出てしまう。さらに主力のステアリングが東南アジア市場で伸び悩み、2ケタ減益を見込む。完全自動運転を目指してステアリング技術を活かした自動操舵システムを開発中。

 日本精工<6471>の通期業績見通しは、今期から国際会計基準(IFRS)の任意適用を受けるため前期との単純比較はできないが、売上高9200億円、営業利益650億円、税引前利益630億円、最終当期利益400億円。前期比で横ばいか、やや減収減益の範囲。予想年間配当は中間期に予定する創立100周年の記念配当10円を含めて4円増配の38円を見込む。自動車事業はゆるやかな成長、産業機械事業は調整が続くという見通しで、想定為替レートはドル円105円。

 カルソニックカンセイ<7248>の通期業績見通しは、売上高5.1%減、営業利益2.0%増、経常利益7.6%増、当期純利益11.0%増の減収、2ケタ最終増益。予想年間配当は5円増配して15円。想定為替レートはドル円105円。日産が三菱自動車を傘下におさめることによる効果は見通しに反映していない。(編集担当:寺尾淳)