日本の労働環境は成果主義の導入以来、多くの労働者にとって労使関係や同じ職場に働く労働者間の家族的つながりをさめたものにしてきた。加えて小泉政権時代のゆき過ぎた規制改革は非正規労働者を急増させ、所得格差を拡大させる最大の原因をつくった。
公共事業を軸とした景気回復策がそこに働く人たちの所得上昇につながるのか。企業が得た利益のいくらを従業員に還元するのか。最低還元しなくてはならない率を法定するくらいの政策をとらなければ経営者は株主配当、設備投資、自らの報酬と内部留保にほぼ全てを使ってしまうことになりかねない。
1日の参議院本会議で市田忠義議員(共産党)は「企業収益を回復させ、その後に賃上げに回すという安倍総理の言い分はすでに破綻している」と追及した。
「1997年に比べ企業の経常利益は1.63倍に増えているが、労働者の賃金は12%も落ち込んだ」実態がそのことを証明していると指摘する。
確かに企業が就労者の賃金を上げるためには稼働率をあげ、売上を伸ばし、利益を確保することが必要だ。その意味では民間需要が生まれるまで公共事業での底入れは必要だろう。
しかし、企業がその利益を従業員にどれだけ還元するかは、市田議員の指摘の通りだ。従って、従業員への利益還元率を法定し、経営者も株主らに説明しやすい環境整備が求められている。
現存企業の大半は会社の所有者と経営者が同一というオーナー企業ではなく、経営者は経営のプロとして独立した存在になっている。雇われ経営者という言葉があるが、そういう存在になっている経営者が多い。
そのため、役員任期のうちに短期・短期で早く業績の結果が求められ、株主総会で続投に対して承認を得るために株主の顔色を伺わうことになりかねない。従業員の給与より株主配当を優先したくなる。そうした環境を改善する必要は生まれている。
内需拡大に公共事業効果が大きかった時代ではなく、現在、個人消費が最も大きな要素になっている。
市田議員は「中小企業には国が手あてをしてでも最低賃金を大幅にアップすること、労働者派遣と期限付き雇用を原則禁止にすることこそ政府が責任を持って行うべきこと」と訴えた。
政府の毎月勤労統計では支払われた給料は1990年以来最低(31万4236円)になった。
その要因は「自然現象でなく、自民党、途中から公明党も加わったが、歴代政権の後押しがあった。1985年に労働者派遣法がつくられ、それまでの雇用は正社員が当たり前という原則が壊され、働く人の3分の1が派遣、請負、有期雇用などの非正規社員に置き換えられている」ことなどにある。
「所得と雇用の安定による個人消費の増加こそがデフレを食い止める」(福島みずほ社民党首)との指摘は安倍政権が本来掲げて取り組むべきテーマだろう。自民党が大企業や一部の富裕層、株式市場を支える人らの視点でなく、働く庶民の目線で政策に取り組み始めたとき、初めて「これまでの自民党とは違う」と言える。
賃上げ目標の設定が難しいなら、従業員への利益還元率の設定くらいは真剣に考えるべきだろう。大規模な公共事業投資を着実に従業員の所得に反映させるには、そうした取り組みが必要だ。(編集担当:森高龍二)