ペットブームが叫ばれるようになって久しい。今や15歳以下の子どもの数(1700万人)よりも、犬や猫の数(2128万頭) の方が多くなっており、少子化とペット数の増加が同時に論じられることも多い。
2011年度のペット関連市場は、前年度比100.4%の1兆4033億円(矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査結果2012」) 。デフレの影響もあるが、ペットの「1兆円市場」は今後もゆるやかに拡大していくことが予想される。
ブームとはいえ、ペットの飼育率は昔と比べて増えているわけではない 。ペットの飼育率は70年代から一貫して3割前後であり、近年のペットブームの背景には1匹あたりの支出が大幅に増加していることがあげられる。
家族社会学者の山田昌弘氏によれば、現代人にとってペットは「理想の家族」になっているという(『家族ペット――やすらぐ相手は、あなただけ』サンマーク出版、2004年)。家族の役割分担が昔ほど明確でなくなった今、人々はペットに家族と同様の「かけがえのない関係」を求め、「ありのままの自分」を受け入れてくれることを望んでいるようだ。
私たちはいわば、ペットが与えてくれるそのような癒しへの「お返し」としてペットを気遣い、ペットが喜ぶサービスにお金を使うのだろう。犬用のアクセサリーや服、ペットと泊まれる温泉、ペット用の保険、葬儀。ペットビジネスにも「ゆりかごから墓場まで」という言葉が当てはまるようになった。
ペットを飼う人々は、互いに必要とされ、決して裏切ることのない関係性を求めているのかもしれない。それは以前であれば、強い絆で結ばれた「家族」が与えてくれるはずのものだった。しかし現実の家族は愛情によって結ばれる一方、互いの主張がぶつかったり、気持ちがすれ違ったりすることもある。
一方ペットは常に飼い主を必要とし、愛情を注いだ分だけ承認欲求を満たしてくれる。だからこそペットはときに、家族以上に「家族らしい」存在だと感じられるのだ。このような言い方がぴったり当てはまるか分からないが、ペットとは「家族の機能の(良い部分を)純粋に抽出したもの」なのである。それはペットを飼う者にとって、深い「癒し」を与えてくれるのだろう。