日本における軽症を含む認知症の人の数は2013年6月時点では推定約462万人で、30年までにはこの1.5倍に増加すると予測される。個人によって病態や環境が異なるため、対応の調整が難しい認知症では、「認知症患者の病態変化をリアルタイムで把握したい、専門家の意見を聞いて問題に対応したい」といった家族からのニーズや、「ポイントを押さえた生活での様子をリアルタイムに把握したい」といった医療・介護機関のニーズがあった。これを受けて東大病院神経内科の辻省次教授、岩田淳講師とエーザイ、ココカラファインは、認知症患者・家族と医療・介護機関とのICTを活用した双方向支援ツール「わすれなびと」の臨床研究を開始する。
「わすれなびと」では検査結果閲覧機能、コミュニケーション機能、服薬支援機能、病状ログ機能が活用できるようになる。具体的には「東大病院での画像診断・認知機能検査・血液検査などの結果及び履歴の、インターネットを通じての閲覧。主治医や薬剤師との外来時間外でのメッセージのやり取りや対話。薬剤師の自宅への直接訪問による服薬支援。タブレット端末による定期アンケートによって日常生活の様子を記録。」といったことが可能になる。これによって、患者とその家族、主治医や薬剤師、介護施設のスタッフが認知症の進展や体調をこまめに把握できて、コミュニケーションの機会が増える。
認知症ケアの流れとして、増え続けてきた施設や精神病院の利用を減らし、地域でケアする方向性が打ち出されている。このため家族、地域住民、医療・介護機関、福祉事務所等が連携して高齢者をケアする「地域包括ケアシステム」の整備が急がれる。現状の課題としての各パートの連携や、ケアする人の専門的知識の欠如、認知症の人の行動・心理状況の把握と早期対応がその一部として挙げられるが、これらを解決するための手段としてICTの活用が進められている。
複数の困難な課題を解決手段としてのICT利活用は、社会システムを維持していくために必須であろう。 世界でも有数の認知症大国日本において「わすれなびと」のようなソリューションの発展と高度な実用化によって、認知症ケア先進国としての役割を担うことが期待される。(編集担当:久保田雄城)