成長著しい東南アジアの中にあり、年間約200万台で推移しているタイの二輪車市場。そんなタイの二輪車市場では、個性に合わせたドレスアップをするなど、自己表現ツールとして二輪車を楽しむ文化が20代男性を中心に定着しているという。
こういった背景の中、ヤマハ発動機が2012年タイ向けモデルの115ccFI・AT(オートマチック)コミューター「TTX」を4月から同市場に導入。プロモーションには、日本でも人気の高い韓国アイドルグループ「BIGBANG」を起用し、20代男性を中心とした層への訴求を図っている。
新製品TTXは、外装部品を重ね合わせたレイヤー構造を施し、専用サスペンションや幅広タイヤ(後輪100/70-14)などを採用した斬新なオフロードテイストのモデル。個性的なドレスアップを楽しむための多彩な純正アクセサリー用品も設定されており、今までタイ市場には見られなかった新しいコンセプトのモデルだという。また、噴射燃料と空気を効率的に混合させる”フューエルインジェクション(FI)”を搭載しており、実用域での燃費向上も図られた製品となっている。
同社は中期的な経営計画において、4つの成長戦略の一つとして「アセアン二輪車における商品力・収益力向上」を掲げ、アセアン市場のFIモデル率の拡大を進めている。タイ以外でも、年間約350万台の需要があるとされるベトナム市場には、2011年秋より女性向けFI・ATコミューター「Nozza(ノザ)」を導入、今年3月には125cc「NOUVO SX」を投入している。約800万台もの市場規模であるインドネシア二輪車市場には、2月上旬に115ccFI・ATコミューター「Mio J」を投入、4月にはMioJをベースにした、力強い外装と大きな一眼ヘッドライトが特徴の「SOUL GT」を投入するなど、続々とFIを搭載したニューモデルを発表している。
ヤマハ発動機は、モノ創り機能のグローバル化を促進する為、「アセアン総合開発センター」を今春タイに設置。日本の本社では将来に向けたコア技術・先行技術などの技術戦略領域・基盤技術領域を担当し、市場にある現地拠点で商品開発領域を担っていくことを目指すという。市場現場でニーズに合った商品開発を進めるとするヤマハ発動機の事業戦略を具現化するもので、今回発表された新商品TTXのような現地主導によるモデル開発の流れが、今後ますます加速すると見られる。
少ない生産拠点で大量に生産し、それを世界各国で販売するのではなく、現地のニーズに合わせて現地の人間が現地で開発・生産を行う。ともすれば当然と言えることかもしれないが、製造業においてはコスト面でのメリットもあり、あまり徹底されてこなかったと言えるであろう。東南アジアを中心とする新興国における需要の高伸長という環境は、戦略が甘くてもある程度売れる状況にあるとも言え、現地のニーズを細かく吸い上げる施策が取られにくい。しかし市場が成熟した際には、ニーズが細分化されることは必至である。その為、今後、ヤマハ発動機が「アセアン総合開発センター」を設置したように、現地開発を行う企業は増加するであろう。グローバル化が進み、国境の壁が低くなる一方で、各国で独自の進化を遂げた二輪車が、文化圏の違いを判断する指標になる時代が来るのかもしれない。