矢野経済研究所では、国内の民間中小病院を対象にアンケート調査を実施した
全国の民間中小病院(45件)に経営上の問題や課題を質問したところ、「職員の不足」が全体の80.0%を占めて最も多く、次いで「建物の老朽化」が51.1%、「入院患者の減少」が33.3%、「病床稼働率が低い」が 26.7%、「外来患者の減少」が24.4%の順と、ハード面とソフト面の両面ともに選択された。民間中小病院においては、特に医師や看護師など医療従事者の確保不足が経営に多大な影響を及ぼしていることがわかるとしている。
在宅医療への対応状況を質問したところ、「在宅医療に対して積極的である」が全体の42.2%を占め最も高く、次いで「どちらともいえない」が同 33.3%、「在宅医療に対して消極的である」が同24.4%の順となった。現在、国は地域包括ケアシステムの構築を推進しているものの、積極的に在宅医療に取り組むとする民間中小病院は約4割に止まっている。また、在宅医療に対する今後の対応について質問したところ、「在宅医療に対して従来よりも積極的に取り組む」が全体の51.1%を占め最も高く、次いで「現状維持」が同40.0%、「わからない」が同6.7%の順となった。
自院の病床の機能区分の変更について質問したところ、全体の62.2%の施設が「病床の機能区分の見直しは必要ない」と回答した。これに対し「病床の機能区分の見直しが必要」 との回答は同 28.9%(13施設)に止まっており、民間中小病院においては地域医療構想による病床機能区分の影響はあまり受けないと捉えているようであるとしている。
さらに「病床の機能区分の見直しが必要」と回答した12施設(1施設は回答無し)に対し、現在の自の病床の機能区分別の病床数と、2025年時点における自院の病床の機能区分別の病床予定数について質問した。12施設の機能区分別の病床数の比率を現在と2025年時点予定で比較すると、「回復期機能」が14.4%→35.3%へ増加したのに対し、「慢性期機能」が 37.5%→31.9%に減少、「急性期機能」については48.1%→32.8%と大きく下回る結果となった。
わが国の医療提供体制の大きな特徴として挙げられるのは、民間中小病院の存在である。これまで、民間中小病院は国民皆保険制度を維持し、保険あって医療なしという状況に陥らないように大きく貢献してきた。一方で、現在、地域において将来(2025 年)のあるべき医療提供体制を構築するために、各都道府県では地域医療構想を策定している。地域医療構想の中では、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の機能ごとに、各都道府県における必要な病床数についても推計され始めている。わが国では、今後の少子高齢化を乗り切るために、これまでの医療提供体制や制度を抜本的に見直すことが求められており、国が民間中小病院に対して病床の機能区分変更を促す強制力を有していないことが問題視され始めている。
今回のアンケート結果において、民間中小病院では医師や看護師など医療従事者の確保不足や建物の老朽化が経営上の問題・課題であるとともに、病床の機能区分を調整するのが困難であることが浮き彫りになったと考えるとしている。(編集担当:慶尾六郎)