京都大学 教育学研究科の鹿子木康弘特定助教、Butler 特別研究員、明和政子教授らの研究グループ は、前言語期のヒト乳児を対象に、6つの実験から弱者を助ける正義の行為を肯定する傾向が発達の早期にすでに認められることを明らかにした
弱者を強者から守る行為は、一般的には「正義」の行為として捉えられヒト社会では賞賛の対象となる。実際、これらの行為は社会に浸透しており、古くは神話に現代では本や映画などでもよく見受けられる。しかし、ヒトはいつ頃からこうした正義の行為を肯定し始めるのかその起源についてはわかっていなかった。
京都大学 教育学研究科の鹿子木康弘特定助教、Butler 特別研究員、明和政子教授らの研究グループ は、前言語期のヒト乳児を対象に、6つの実験から弱者を助ける正義の行為を肯定する傾向が発達の早期にすでに認められることを明らかにした。
まず、6カ月児を対象に攻撃されている弱者を助ける第三者、つまり正義の味方を選好するかどうかの検証を行った。具体的には水色の丸いエージェント(動作主)が黄色の丸いエージェントを攻撃する場面を目撃した四角いエージェント(緑またはオレンジ)が、丸いエージェントの間に入って攻撃を防ぐ映像と防がない映像を乳児に交互に提示した。その後、実物の四角いエージェントを乳児の目の前に提示し、乳児がどちらのエージェントの人形に手を伸ばすか(選好)を調べた。
その結果、6カ月児は攻撃を止めるエージェントをより多く選択した。続く実験では、攻撃相互作用が目のない無生物になった場面や攻撃的ではなく中立的な相互作用になった場面を乳児に提示したが、これらの場面ではどちらかのエージェントに対する選好はみられなかった。つまり、乳児は攻撃的な相互作用を止める場合においてのみ、第三者の介入行為をポジティブに評価したという。
さらに、乳児が第三者の介入行為を「正義の行為」として認識していることが確かめられた。そして、行為の意図を考慮して正義の行為の評価を行う能力は、生後 6~10 カ月の間に発達することを明らかにした。
これら一連の結果は、ヒトは生後早期から攻撃者、犠牲者、正義の味方の関係性を理解し、正義の味方のような行為を肯定する傾向をもつことを示しているという。正義の行為を理解し肯定する傾向は、学習の結果というよりも、ヒトに生来的に備わっている性質である可能性が高いとしている。
今後は、この研究で示された発達初期の正義を肯定する傾向がどのような要因によって発達するのか(遺伝や環境要因の特定)、その後発達する、より高次な正義感とどのような関係にあるのか、を解明していくことが必要である。これらの問題を科学的に検証することは、現代社会が喫緊に取り組むべき社会的課題であるいじめの本質的な理解とその解決に向けた議論につながると期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)