東日本大震災から6年 東北大らが巨大津波が海岸動物の遺伝的多様性に及ぼした影響を解明

2017年03月20日 08:07

 東日本大震災にともなう大津波が東北地方を襲ってから、約6年の歳月が流れた。この間の研究の蓄積により、沿岸の生物もまた津波により大きな影響をうけたことが明らかにされてきた。海岸地域では、生物の種数や個体数が大きく減少した。個体数の減少は、生物種を単純に絶滅の危機にさらすだけでなく、環境変化や感染症への適応力の基盤となる遺伝的な多様性を減少させ、長期的な視点においても絶滅の危険性を高める。しかし、今回のような大津波が生物種の遺伝的多様性にどのような影響を及ぼすかをしらべた研究はなかった。

 高知大学・東北大学・国立環境研究所・日本大学・東京大学の合同研究チームは、海岸に生息する巻貝ホソウミニナへの津波の影響を約 10年間にわたり調査した。その結果、仙台湾周辺の6つの干潟において、ホソウミニナの大多数が津波で死滅したにも関わらず、遺伝的な多様性には大きな変化がなかったことを突き止めた。

 研究では、細胞の核の中にある遺伝情報(核DNA)の中に散在する単純反復配列(マイクロサテライト DNA)を解析することで、干潟に生息する巻き貝ホソウミニナの遺伝的多様性が、津波により減少したかどうかを検証した。ホソウミニナは津波被災地の多くの干潟で優占する普通種であり、生息地間で遺伝的な分化も進んでいるため文献4、遺伝的多様性の局所的な変化がみえやすいと予想した。調査は、仙台湾沿岸と周辺海域の6 つの干潟において、2004年から 2015年までの期間に行った。
 
 津波により個体数が激減したにもかかわらず、ホソウミニナの遺伝的多様性は明確な減少をしていないことが明らかとなった。ホソウミニナの個体数は、津波から約6年たった今も依然として震災前より少ない状態が続いているが、2013年からは津波後に生まれた稚貝も現れ、少しずつ回復へと向かっている。

 仙台湾沿岸には、約500-800年の周期で繰り返し大津波が打ち寄せてきたことが、地質学的研究により明らかになっている。生物の「種」は通常、100万年以上もの長きにわたり存続している。仮にホソウミニナという種10万年存続してきたと仮定すると、今回のような大津波を1000回以上も乗り越えてきたことになる。たとえ個体数の減少があったとしても、遺伝的多様性は簡単には減少しないこと、これこそが海岸の生物において、津波を乗り越え、次世代へと命を繋ぎ、そして種を存続させる原動力になっているのかもしれないとしている。(編集担当:慶尾六郎)