脂肪を燃焼させる褐色脂肪組織を可視化 産総研らが開発

2017年03月25日 08:20

 最近、メタボリックシンドロームによる健康障害が急増する中、脂肪を燃焼させる組織である褐色脂肪組織に関する研究が進んでいる。特に褐色脂肪組織の活性化が期待されており、未知な部分が多い褐色脂肪細胞に関する基礎研究と、その活性化手法の研究が精力的に行われている。そうした研究では、動物実験で褐色脂肪組織を非侵襲で観察することが、解剖による動物への苦痛を軽減し、使用する動物数を減らすという点からも重要である。しかし、これまでそれができる手法は、大型で高価な、放射性同位元素を用いるPET-CTだけであった。

 一方、生体透過性の高い近赤外光を用いて小動物の体内を非侵襲的に造影する手法があり、近赤外光により高効率で発光する半導体型SWCNTが蛍光材料として注目されている。しかし、特定の生体組織を選択的に造影する技術はなく、血管造影や臓器の造影にだけ使われていた。

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門 湯田坂 雅子招へい研究員、片浦 弘道 首席研究員は、国立研究開発法人 国立国際医療研究センター研究所 疾患制御研究部 幹細胞治療開発研究室 佐伯久美子 室長、国立大学法人 北海道大学大学院獣医学研究科 比較形態機能学講座 岡松 優子 講師、国立大学法人 東京大学大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 石原 一彦 教授と共同で、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)をプローブとして用いた褐色脂肪組織(BAT)の近赤外蛍光造影法を開発した。

 今回、生体親和性の高い分散剤のMPCポリマーの一種であるPMBで表面を被覆したSWCNT(PMB-SWCNT)が、マウスの褐色脂肪組織に選択的に沈着することを見出した。これは、まずPMB-SWCNTが血中にあるアポリポタンパク質を取り込み、血流によって体内を循環するうちに、褐色脂肪組織の毛細血管内皮細胞にあるアポリポタンパク質受容体に選択的に沈着するためである。沈着したPMB-SWCNTをプローブとして近赤外蛍光イメージングを行うことで、褐色脂肪組織を選択的に造影できる。また、SWCNTには発光効率の高い半導体型SWCNTを高純度に分離精製して用いたため高感度であり、少量のPMB-SWCNTで鮮明な近赤外蛍光イメージングができ、生体への負荷を抑えることができる。

 今回の技術では、波長730nmの高輝度LED光をマウス全体に照射して、PMB-SWCNTが発光する蛍光のうち1000 nm以上の波長の近赤外光だけを近赤外カメラでイメージングする。PMB-SWCNTをマウスの尾の静脈に投与し、近赤外蛍光イメージングを行うとすぐに褐色脂肪組織が鮮明に造影されはじめる。図2右には、3時間後のイメージング結果を示している。このように、従来に比べて極めて簡便な装置で褐色脂肪組織の選択的な造影が高感度、高解像度で行え、安価にマウスの褐色脂肪組織を非侵襲で観察できるようになった。また、リアルタイム観察が可能であるため、蛍光染色された褐色脂肪組織の選択採取が可能である。さらに、採取した組織の蛍光顕微鏡観察も可能であり、褐色脂肪組織の研究、特に活性化手法の研究への貢献が期待されるとしている。

 今後はメタボリックシンドロームの予防・治療法研究の動物実験で、PMB-SWCNTが活用されることを目指して、PMB-SWCNTのサンプル提供を進めるとともに、共同研究を進めていく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)