藤田保健衛生大学は、理化学研究所、東京大学、大阪大学など全国32の大学・施設・研究チームとの共同研究により、脂質代謝とそううつ病発症の遺伝的リスクが共通する可能性があることを突き止めた。日本人を対象とした大規模なゲノム解析の結果、脂質代謝に関連する遺伝子「脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(FADS)」の特定配列を持つ人は、持たない人と比較してそううつ病にかかるリスクが1.18倍だったという。
同研究では、そううつ病患者約3000人と、そううつ病でない約6万2000人を対象にゲノム解析を行っており、これは日本人サンプルとしては最大規模となる。そう状態とうつ状態を繰り返す症状を呈するそううつ病は、遺伝的要因の関与が示唆されていたが原因の解明はされていない。過去には、白色人種が対象のそううつ病に関する研究にて、疾患発症に関わる可能性がある遺伝子が判明しており、この研究と今回の研究の結果の分析により、FADS遺伝子とは別に、そううつ病発症に関わる可能性を持つ遺伝子が新たに発見された。これら三つの遺伝子について分析したところ、そううつ病発症に関わる可能性があることを強く示唆する結果も得られたとのこと。
FADSはオメガ6不飽和脂肪酸(n-6系脂肪酸)やオメガ3不飽和脂肪酸(n-3系脂肪酸)といった、体内で合成できない種類の不飽和脂肪酸の代謝に関わっている。分子内に二重結合(不飽和結合)を持つ不飽和脂肪酸は、同じ脂質でも飽和脂肪酸と性質が大きく異なり、二重結合を複数持つ多価不飽和脂肪酸が癌の進行やアレルギー疾患発症を抑制することがわかっている。また、ゲノム全域関連解析により、脂質代謝には人種差があることもわかっており、日本人では、食生活の欧米化による脂質エネルギー比率の増加が、近年の糖尿病や動脈硬化激増の要因とされる。こうした生活習慣病の予防のためには、EPAやDHAといいたn-3系脂肪酸を含む食品を多く摂取し、n-6系脂肪酸/n-3系脂肪酸の比率を上げることが栄養学的に奨励されている。
今回の研究の発展により、そううつ病の予防・治療法で栄養学的なアプローチが確立される可能性もあり、今後の成果に期待される。(編集担当:久保田雄城)