安倍晋三総理は19日の記者会見で「国家戦略特区をめぐる省庁間のやり取りについて、文科省が徹底的な追加調査を行った結果、新しく見つかったものも含め文書を公開した。これを受け、内閣府も調査を行い、関係する文書等を明らかにした。最初の調査ではそれらの文書の存在を確認できなかった。二転三転した形になり、長い時間がかかることとなり、こうした対応が国民の皆さんの政府への不信を招いたことは率直に認めなければならない」と語った。安倍総理の口からは学校法人加計学園の言葉は出なかった。
一方で、安倍総理は「国家戦略特区において、行政が歪められたかを巡り大きな議論になった。獣医学部の新設は50年以上、まったく認められて来なかった。しかし、鳥インフルエンザ、口蹄疫など、動物から動物、動物から人に移るかもしれない伝染病が大きな問題になっている。専門家の育成、公務員獣医師の確保は喫緊の課題だ」と強調。
そのうえで「そうした時代のニーズにこたえる規制改革は行政を歪めるのではなく、歪んだ行政を正すもの」と主張し、「岩盤規制改革を全体としてスピード感を持って進めることは総理としての私の意思だ。決定プロセスは適正でなければならない。国家戦略特区は民間メンバーが入って諮問会議や専門家が入ったワーキンググループにおいて議論を進め、決定されていく。議事は全て公開している。透明・公正・公平なプロセスこそが岩盤規制を打ち破る大きな力となる。獣医学部の新設でも、審議に携わった民間議員はプロセスに一点の曇りもないと断言している。岩盤規制改革の突破口だ」と加計学園ありきで獣医学部新設の審議が進んだものではない旨をアピールした。
また総理は「今後、何か指摘があれば、政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たしていく。国会の開会・閉会に関わらず、政府としては今後とも分かり易く説明していく、努力を積み重ねていく考えだ。国民のみなさまの信頼を得ることができるように、冷静に分かり易く一つ一つ丁寧に説明していきたい」と述べた。
しかし、総理が会見を行った同夜、NHKは、獣医学部の新設が決まる前に、萩生田光一内閣官房副長官28年11月までの間に「文科省だけが怖じ気づいている」「官邸は絶対やると言っている」など文部科学省担当者に迫っている内容の「新たな文書」を独自に入手したとし、ニュース番組で報じた。
文書は文科省内の複数の担当者が共有していたとし、文書は「28年10月21日」付け「荻生田副長官ご発言概要」となっている。
その中には「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた。工期は24ヶ月でやる。今年11月には方針を決めたいとのことだった」「何が問題なのか書き出して欲しい。その上で、渡邊加計学園事務局長を浅野課長のところにいかせる」などの記述があり、実際の流れと整合性が取れる内容だった。「農水省が獣医師会押さえないとね」との記述もあった。NHKはこれらを示したうえで、萩生田副長官からNHKの取材に答える回答文書も報じた。
萩生田副長官は「加計学園に関連して、私は総理から如何なる指示も受けたことはありません」と冒頭に記したうえで「具体的に総理から開学の時期について指示があったとは聞いていませんし、私の方からも文科省に対して指示をしていません」と文書内容を否定し「今回の件では、心当たりのない内容が、私の発言・指示として文書・メールに記載されていることについて、非常に理解に苦しむとともに、強い憤りを感じております」と記していた。
加計学園の大学に獣医学部を新設する経緯について、今回、会見後、新たな疑惑を生じる文書が存在することが分かったことから、総理の言う「今後、何か指摘があれば、政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たしていく」との発言に該当する、新たな指摘であり、前川喜平・前文科事務次官とともに萩生田官房副長官ら関係者の証人喚問を実現させるよう自民総裁として指示するとともに、政府としても、説明責任を果たしていくことが求められている。(編集担当:森高龍二)