フォーミュラE 香港緒戦・第2戦は波乱、第3戦の暑いマラケシュ戦に注目

2018年01月13日 09:18

Formula_E _Season4

ロームのフルSiCパワーモジュールを搭載し、インバータの小型、軽量化を実現したヴェンチュリーチームは、フォーミュラEシーズン4で好スタートをきった

 「フォーミュラE」のシーズン4が2017年12月に始まった。「フォーミュラE」とは、2014年9月から開催されている電気フォーミュラカー、つまりフェンダーが無いオープンホイールの電動レースカーによる国際レースだ。

 香港やモナコ、パリやニューヨークなど、すべて市街地サーキットで開催され、聞こえるのはモーターが静かに唸る音と、タイヤのスキール音、そして観客の歓声だけだ。排気ガスやオイルの臭いとは無縁のイベントなのだ。

 まずフォーミュラEのこれまでの経緯とレギュレーションの推移について触れておこう。

 初年度のシーズン1は実験的で、「スパークルノーSRT_01E」のワンメイクレースだった。が、2年目からはモーターおよびバッテリーに付随するパワーコントロールユニット、ギアボックスの独自開発が認められた。そのため、パワーコントロールユニットにおける電力変換の中核部品である、インバータの性能をアップさせ、かつ小さく軽くして搭載することが重要となり、チームの競争力向上は、このインバータ開発が鍵となった。

 現在のところ、リチウムイオン電池は共通で、ウイリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング製だ。シーズン中使用できる電池は、マシン1台につき1基に制限され、量容量は28kWhとされる。容量電池単体の重量は200kg、車体骨格の一部として組み込まれ、水冷システムなどを含めた総重量は320kgほどになる。

 この電池を搭載したマシンが、決勝レース全行程で、全開走行すると“電欠”となって完走できない。ドライバーには、電力消費量(残量)を睨みながらの冷静なドライブが要求される。

 また、シーズン3からシーズン4への移行に伴ってモーターの最高出力が200kWから220kW(決勝は170kWから180kW)に引き上げられた。単純にマシンのトップスピードが速くなったのだが、マシン1台が使用できるエネルギー量に変わりはなく、28kWhとされたままだ。当然のことだが、エネルギーのマネージメントがこれまで以上に重要となる。

 こうした厳しい要求に応えるには、高出力モーターに適切な電力を供給することが必要だ。モーターを駆動する適切な電力は、高品位なインバータを含めた電子回路で制御する。

 インバータは電力変換の中核部品で、パワーエレクトロニクス回路の設計や搭載部品の性能が、マシンの電力損失や駆動効率に大きく影響する。

 そこで「フォーミュラE」マシン開発にとって、パワーエレクトロニクス回路の構築と電力損失を極限まで低減するパワー半導体の採用が極めて重要な要素となるわけだ。

日本からも、大手電機メーカーのパナソニックや電子部品メーカーのロームがかねてよりフォーミュラEに関わっている。新たに日産自動車やルネサスエレクトロニクスが参加を表明するなど、今後の世界的なEV量産に向けて、自社の製品優位性を世界に広くアピールできる格好の場所として注目されている。

 2017年12月2日、香港で開幕したシーズン4。その第1戦、第2戦は、香港中央郵便局や巨大なショッピングモール、バスターミナルに隣接する、街の中心部に設定された公道サーキットで行なわれた。1周1.86km、最も長いストレートでも555mしかない。“ミッキーマウスサーキット”と呼ばれる所以だ。距離が短くてブレーキングシーンが多く、コースはバンピーなうえ、市街地コースゆえにエスケープゾーンがない。

 シーズン4初戦は、ワークス体制で臨んだ昨シーズンの覇者、アウディ(Audi)に注目が集まった。が、土曜日に行われたレース1で、ドライバーの1人であるダニエル・アプトが5位に入ったものの、昨年のチャンピオンであるルーカス・ディ・グラッシは、ルノー(Renault)チームのセバスチャン・ブエミと衝突し、ポイント獲得ならずに終了。また翌日曜日のレース2では、アプトがレースで強さを見せたにもかかわらず、チームの管理上のミスが原因で勝利を剥奪されてしまった。

 一方で、パワーデバイスおける世界のリーディングカンパニーであるロームとオフィシャル・テクノロジー・パートナーシップ契約を締結している「ヴェンチュリー(Venturi)チームのシーズン4の香港戦は視界良好だった。

 第1戦、カーナンバー「4」のエドアルド・モルタラは13位、カーナンバー「5」のマーロ・エンゲルは7位だったが、ダブルヘッダー第2戦では、それぞれ7位と2位にジャンプアップ。久しぶりに表彰台を獲得した。

 ヴェンチュリーチームのマシンで昨シーズンから変わった点のひとつとして、ロームが提供するSiCパワーデバイスがある。ロームは、マシン駆動の中核を担うインバータに世界最先端のパワー半導体であるSiCパワーデバイスを提供し、小型・軽量化、高効率化をサポートしてきた。シーズン3で、ロームが提供したパワーデバイスは、ダイオード(SiC-SBD)だけだったが、シーズン4よりトランジスタとダイオードを同梱したフルSiCパワーモジュールを提供した。これによって、SiCを搭載する以前、つまりシーズン2のインバータと比較して、43%小型化、6kgの軽量化を実現。今後も好成績が続くようなら、このフルSiCパワーモジュールもその勝因と言えるだろう。

 フォーミュラE、第3戦は、1月13日にモロッコの首都マラケシュの城壁地外側の新市街地サーキットで開催される。真冬の夜は零下となるも、日中の気温は軽く30℃を突破する北アフリカ・マラケシュで、どんなレースが展開されるだろう。

 レースの模様は、13日深夜0:30~2:30、CS「J SPORTS」で生中継される。また、レースのハイライトはBS日テレの17日深夜0:00~1:00で放送予定だ。(編集担当:吉田恒)