産業機器や大型白物家電、自動車、鉄道、新エネルギーなどに使用されるパワーモジュールの市場が今年度順調だ。
矢野経済研究所が昨年発表した「パワーモジュールの世界市場に関する調査」によると、2017年のパワーモジュール世界市場規模は40億9000万ドル。2015年から2020年までの年平均成長率(CAGR)は9.1%で推移し、2020年には58億4000万ドルまで拡大すると予測。また、2020年におけるパワーモジュールの世界需要規模は、主要市場の好調さを背景に、環境規制・省エネルギー化などの追い風を受けて数量ベースで2億個を突破、大きく成長すると見込んでいる。
とはいえ、パワーモジュールという言葉を知っていても、その役割についてまでは、あまり知られていないのではないだろうか。一般的に「半導体」といえば、CPUやメモリなどを連想する人が多いだろう。これらの主な役割は「演算」や「記憶」などで、PCやスマートフォン、テレビなど民生機器に用いられる。一方、パワー半導体と呼ばれるものは、交流電流を直流にしたり、電圧を降圧したり、周波数を変えたりすることで、モータの駆動やバッテリの充電、さらにはマイコンやLSIを動作させるための電力供給が主な仕事となる。そして、パワーモジュールとは、このパワー半導体を含む複数のICを組み合わせ、電源関係の回路を集積した部品のことを指すことが多い。
このパワー半導体が利用される最も身近な例は、エアコンや冷蔵庫、洗濯機などに搭載されている「インバータ」だ。インバータは、周波数を変換することでモータの回転数を制御する装置である。モータの回転数を自由に変えることで無駄な動きを減らし、省エネ化に貢献できる。一方、インバータ非搭載のエアコンでは、モータのオンオフしかできないので、エアコンを動かすか消すかという極端な動作で無駄な電力が増えてしまう。
インバータのこれらの働きは、パワー半導体のひとつであるパワートランジスタが、電流のオンオフを細かく切り替える「スイッチング」を行うことで実現する。
パワー半導体の中でもパワートランジスタは最も応用範囲が広く、技術開発が盛んに行われている。主なものとして、構造がシンプルで大きな電力を扱える代わりにスイッチング速度が遅く、消費電力が大きいという難点のある「バイポーラトランジスタ」、最も高速なスイッチングが行えるため低消費電力なものの、大きな電力を扱いにくい「パワーMOSFET」、そして前述の2つの特徴を併せ持ち、大きな電力が扱える上に、MOSFETには劣るものの比較的早いスイッチングが可能な「IGBT」の3つがある。
三者三様の利点と課題を抱えているが、現在のところ、用途によってその利点を活かせるということで、比較的小さな電力用途ではパワーMOSFET、比較的大きな電力領域ではIGBTが主に用いられることが多い。
どちらにおいても日本製品は高い信頼を得ているが、4月17日に新開発のIGBT「RGTV/RGWシリーズ」を発表したばかりのローム株式会社が今後、日本の半導体企業の中でも世界のパワー半導体市場でより大きな注目を集めそうだ。
同社が今回開発した新IGBT「RGTV/RGWシリーズ」は、薄ウエハ技術および独自構造を採用することで、トレードオフの関係にある低導通損失および高速スイッチング特性において、業界トップクラスの性能を両立。アプリケーションの低消費電力化に貢献する上、デバイス内部の最適化によって、スムーズなソフトスイッチングを実現した。同等効率の一般品と比較した場合、電圧のオーバーシュートを50%低減できるので、対策部品などの搭載点数の削減や大幅な設計負荷低減にも寄与するという。同社は4月10日に同じくパワー半導体として盛り上がりを見せ始めているSiCへの大規模投資も発表しており、パワー半導体市場でより大きな存在になると予想される。
昨今話題のIoTなどでも、パワー半導体が担う役割は重要になってきている。というのも、膨大なデータを管理するためにサーバーをはじめとするシステム全体での消費電力量が激増しており、低消費電力化が火急の課題となっているからだ。そんな中、業界では2016年末頃からM&Aや新興企業の参入の動きも目立ち始めている。そうなると、汎用化が進み、安価な製品も増えてくると思われるが、日本の半導体企業には安易な価格競争に陥らないで、信頼高く価値のある製品を提供し続けてほしいものだ。(編集担当:藤原伊織)