東日本大震災以降、日本では省エネ意識が高まったが、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の調査資料「Key World Energy Statistics」(2015年度版)のデータによると、日本人一人当たりの電力消費量は年間約7836kWh。カナダ、アメリカ、韓国に次いで、4番目に国民一人当たりの電力消費量が多い。しかも、今後も情報化社会の進展や高齢化の進行によって、家庭の電力消費は引き続き増加すると予測されている。
電力消費量の増大は、今や地球規模の問題だ。2012年時点での世界の電力消費量はおよそ17兆kWhといわれており、1980年からの30年間で3倍の伸びを示している。しかも、中国やアジア諸国、アフリカなど、発展途上国の経済成長を考えれば、2030年頃には最大でなんと50兆kWhまで拡大するともいわれているのだ。
世界規模で加速する電力消費量を賄うためには、まず圧倒的に発電所が不足している。また、たとえ発電所が足りたとしても、それを動かす動力、燃料は膨大な量が必要になる。わざわざ語るまでもなく、このままこの状況が進んでいけば、地球は大変なことになることは目に見えている。
そこで今、改めて注目が高まっているのが「インバータ」だ。インバータとは、モータの回転数を制御する装置のことで、日本では早くからエアコンなどに搭載されて、すでに馴染み深いものになっている。
日本で初めてインバータ搭載のエアコンを発売したのは東芝で、1981年12月に発表するや否や大きな反響を呼び、1984年にはエアコン技術史に大きな革命を起こしたことが評価され、新技術開発財団から「市村産業賞」を受賞している。また2008年には電気学会から第一回「でんきの礎」にも登録された。
日本ではエアコンに限っていえば、ほぼ100%ともいえる搭載率を誇るインバータだが、世界的にみると、普及率は1割程度。中国などの環境問題が深刻化している地域では、インバータは節電の有効な手段となるのだが、やはり価格や省エネ意識の問題がある。残念ながら海外諸国では日本ほど省エネ意識が高くないのが現実のようだ。また、カナダや米国などの地域ではセントラル空調が基本で、日本のようにルームエアコンは比較的少ない。これまでインバータ搭載のセントラル空調が少なかったという事情もある。
現在、ダイキンなどが高効率で低価格のインバータエアコンの開発や、インバータ搭載のセントラル空調の普及などを積極的に進めているが、エアコンだけではなく、世界の電力需要の約55%がモータ駆動のために使われていることを考えれば、エアコン以外の家電製品のインバータ化も急務といえるだろう。
それを推し進めるためには、開発の負担をいかに軽減するか、とくにインバータ化を実現するファンモータドライバの役割が大きい。
例えば、電子部品大手のロームが10月末に発表した高耐圧ファンモータドライバ評価用ボード「BM620xFS-EVK-001」という製品に注目したい。同製品は99ミリメートル角サイズという業界最小クラスの小型面実装パッケージながら、モータ制御ICと業界最高クラスの耐圧600Vのパワー半導体を1パッケージ化したもので、従来は 2パッケージでしか実現できなかった高効率な正弦波モータなども極めて簡単に実現できる。また、一般的なMOSFETを搭載したファンモータドライバと比較して高耐圧化・低損失化に成功したことで、電力インフラが不安定な海外でも安心して使用することができる優れものだ。さらに、通電タイプと最大出力電流が異なる計6製品が評価可能なうえ、白物家電やポンプモータなども評価可能なことから、エアコン以外の家電のインバータ化にも大きく貢献する。インターネットで1個からに購入可能というメリットもあり、幅広い家電に使用可能である高効率のファンモータドライバの評価を簡単に行える環境があることは、家電のインバータ化促進にも貢献すていくことだろう。
インバータの節電効果は、対象となる機器や周囲環境によっても異なるものの、例えば60Hzの地域で回転数が42Hzの場合、30%の削減率だと節電率は63%以上にもなる。家庭はもちろん、産業にももっと普及すれば、世界的にも大きな省エネ効果が図れる。そのためにも、インバータ化を推進する日本企業の活躍に期待したい。(編集担当:藤原伊織)