昨今の半導体市場では、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(ガリウムナイトライド)を使った、いわゆる「次世代パワー半導体」に大きな注目が集まっている。
富士経済の調べによると、2017年のパワー半導体市場規模は2兆7192億円。2030年には4兆6798億円にまで成長すると予測。現在はこの市場の99%をSi(シリコン)ベースの製品が占めているが、今後、SiCやGaNの需要が本格化することに加え、Ga2O3(酸化ガリウム)系の実用化なども進むとみられることから、2030年には全体市場の10%を次世代パワー半導体が占めると推測している。
これに合わせ、業界の動きも活発化してきた。6月5日には、GaNパワーデバイスの世界的リーダーであるGaN Systems Inc.(以下、GaNシステムズ社)と、パワー半導体のリーディングカンパニーであるローム株式会社が、GaNパワーデバイス事業における協業の開始を発表した。
GaNパワートランジスタにおける業界トップクラスの性能を誇るGaNシステムズ社と、すでに普及が進むSiCパワーデバイスを中心にパワー半導体の設計・製造における総合力を持つロームの協業は、業界的にもかなり注目度の高いニュースだ。両社は今後、産業機器、自動車、家電分野向けなどに最適なGaNパワーデバイスの研究開発を共同で進めていくほか、互換性のある製品と安定したサポートを顧客に提供していく。
また5月22日には、国立研究開発法人 産業技術総合研究所と名古屋大研究員らからなる、窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ、通称「GaN-OIL」が、未来材料・システム研究所と共同でラマンマッピング像からGaN半導体結晶の欠陥を検出する技術の開発を発表している。この技術を用いることで、GaN半導体結晶の欠陥の分布や方向を非破壊で特定することが可能となり、GaN半導体デバイスの製造プロセス改良への貢献が期待される。
一方で、次世代パワー半導体として既に採用が進むSiCパワーデバイスの分野では、新陳代謝が活発化している。前出のロームは2025年までに約600億円の投資を行いSiCパワーデバイスの生産能力を現状の16倍にすることを発表しているのに対して、新日鉄住金マテリアルズは事業撤退を発表、生産や開発の設備を昭和電工に譲渡するなど、明暗が分かれている。
昭和電工は2005年からSiCエピタキシャルウェハーに取り組んでいる豊富な実績もあり、中期経営計画においてもパワー半導体SiC事業を「優位確立事業」に位置付けている。今回の新日鉄住金の関連資産譲受に加え、自社の生産能力の増強も続々と発表しており、事業拡大に意欲を見せていることからも、業界内での今後の期待値は高い。
これらの関連業界の動きが今後、半導体市場全体にどのような影響をもたらすのか。相乗効果で加速すれば、富士経済の予測をも上回る拡大が望めるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)