信用できない政府統計 信頼回復へ誠実な対応を

2019年01月27日 11:01

画・「ユーザー行動分析」、7割の企業で実施。未だ「効果測定は不十分」7割。

 政府統計が信用できない。深刻な事態になっている

 政府統計が信用できない。深刻な事態になっている。厚生労働省が昨年6月の毎月勤労統計調査(速報値)で労働者1人あたりの平均賃金(パート含む)は名目賃金で現金給与総額44万8919円と前年同月比で3.6%増え、21年5か月ぶりの高い伸びになった、と発表し、マスコミが一斉に「労働者賃金、21年ぶりの大幅な伸び」と報じた。アベノミクスがあたかも賃金上昇に大きく貢献している印象を受ける。

 上昇率は確報値でも公表では「3.3%の高い伸び」になっていた。しかし速報・確報ともに、この数値は厚労省の国民に対するトリックとしか言えない。

 毎月勤労統計調査の手法を変えたうえに、比較してはいけないものを比較した数値だった。総務省大臣官房審議官は「統計委員会の見解としては、伸び率は1.4%でみるべきだ」と国会閉会中審査の委員会で答えた。

 当の厚労省も対象事業所の入れ替えを行ったが、17年6月と18年6月の調査で共通した事業所にのみ絞って行った比較では「1.3%の増」にとどまったことを「参考値」として資料で示してはいた。マスコミの伝え方にも問題があったかもしれない。

 ただ、なぜ、3.3%増と高い伸びになったのか。最大理由は経済センサス(全数調査)の賃金算出基準(ベンチマーク)が変えられたことにあった。旧サンプルと新サンプルでは5人以上の事業所に勤務する常用労働者割合のうち「5人~29人」までの事業所の常用労働者割合が旧では43.9%あったが、新では41.1%と2.8ポイント下げられ、規模の大きい事業所の比率が高くなった。

 規模の大きい事業所が増えれば平均賃金は当然あがる。しかも、30人以上の事業所について無作為抽出し、2~3年ごとに「総入れ替え」していた対象事業所を「部分入れ替え」にし、18年1月から半数を入れ替え、遡及改定をやめるなどしていた。

 社会民主党の福島みずほ副党首は「アベノミクスで賃金が上がっていると何としてもしなければいけなかったから、ベンチマーク(基準)を修正し、比較してはいけないものを比較したのだ」と24日の参院厚生労働委員会閉会中審査で根本匠厚労大臣らを追及し「アベノミクスの偽装だ」と指摘した。

 根本大臣は「偽装のために操作したことはない」と否定したが、官邸に忖度した疑いがある。福島氏は「ベンチマークの更新」「遡及改定なし」「500人以上の企業を3倍増」など賃金上昇の背景をあげたうえで、統計発表時「厚労省は業績回復を背景に大企業が夏のボーナスを増額した影響だなどと発表したが、大企業を3倍増しにした、ベンチマークを更新したことを言うべきではないか」と指摘し「賃金は上がっていない」と訴えた。

 政府は昨年6月の労働者1人あたりの平均賃金は前年同月比で「2.8%増」だったと公表値を修正した。しかし、その数値もあやしい。統計委員会の見解としては「伸び率は1.4%でみるべき」との見解からも乖離が大きい。実際どうだったのか、賃金はプラスどころかマイナスになっていたのではないか。国会でさらに数値の裏付けをしてほしい。これらが解明されない状況では政府統計の数値が信用できなくなる。(編集担当:森高龍二)