自衛隊員採用計画割れは憲法9条解釈変更から

2019年03月03日 11:48

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防衛省が自衛隊員確保に苦しんでいる。自衛官候補生の入隊は2014年度から17年度まで4年連続、採用計画を割り込んだ

 防衛省が自衛隊員確保に苦しんでいる。自衛官候補生の入隊は2014年度から17年度まで4年連続、採用計画を割り込んだ。採用計画に対する充足率(採用者数)は13年度109.7%だったが、14年度95.9%、15年度87.2%、16年度95.4%と割り込み、17年度は採用計画約9400人に対し採用は約7500人にとどまり、79.9%まで落ち込んだ。その要因は何か。

 岩屋毅防衛大臣は2月26日の記者会見で「非常に厳しい採用状況にある」と予定を確保できていないとしたうえで、理由として(1)自衛官の採用対象者そのものの人口の減少(2)高学歴化が進んでいるという背景(3)景気が比較的堅調に推移しており、労働市場が売り手市場であることを挙げた。そして「諸々の原因で自衛官の採用を巡る環境は厳しさを増していると考えている」と述べた。

 しかし、2013年度から14年度の1年の間に人口減少が急激に進んだのか、高学歴化もそれ以前から進んでいた。

 最大要因は、安倍内閣が憲法9条の解釈を変更し、歴代自民党政権も「認められていない」としてきた「集団的自衛権」を「限定的に行使できる」と解釈変更し、集団的自衛権行使を含む安保関連法を強行に成立させたからだ。採用計画を難しくしたのは安倍内閣だった。

 憲法9条の「専守防衛」の枠組みから逸脱した結果、自衛隊員のリスクが大幅に増えた。集団的自衛権行使を含む安保関連法に関しては歴代内閣法制局長官らが「憲法9条に違反する」と指摘してきた。宮崎礼壹元長官は「(集団的自衛権の部分については)憲法9条に違反しており、速やかに撤回すべき」、阪田雅裕元長官は「安倍総理が集団的自衛権行使の事例にあげるホルムズ海峡の機雷封鎖など、どう考えても『存立危機事態』に至りようがないと思う。中東有事にまで集団的自衛権の出番があるとすれば、これは限定的でもなんでもない」と当時の衆院安保法制特別委員会で断じた。

 この安保法制の下で、自衛隊員の訓練内容も変化している。そうした背景から入隊応募者が減少してきたとみるのが自然だろう。

 加えて、自衛隊の防衛装備は「いずも」型護衛艦改修による「空母化」、常時ではないが護衛艦に搭載する「F35B」戦闘機、陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージスアショア」の配備など、5年間で27兆円の防衛費をつぎ込む。

 安倍総理は自ら自衛隊入隊志望者を減らす結果を招きながら、自治体に対し自衛隊員確保のための協力をしていないと18歳や22歳の住民の氏名、住所、生年月日、性別といった個人情報を紙や電子媒体で提供するよう促す発言を国会で行っている。

 防衛大臣は自衛隊員募集の事務的協力を自治体首長に要請できることになっているが、自治体側に応じる義務は明記されていない。自衛隊が志望入隊であるかぎり、志望しない国民に対し入隊案内を送るのは合理的ではないし、個人情報保護の観点からも、自治体が一律に住民基本台帳から個人情報を得て、紙や電子媒体で防衛省に提供していくことには疑問がある。

 現在、3割の自治体が紙や電子媒体で個人情報を提供しているようだが、提供するなら対象となる住民に提供する旨を周知させ、期限をつけて情報提供対象から外すことができる旨も伝えるようにすべきだろう。

 岩屋防衛大臣は「自衛官募集のための地方自治体に対する防衛大臣の依頼について様々議論があるが、私どもも更に努力していかなくてはいけないと思っている。そういう取り組みもしっかりやっていきたい。また今後、採用年齢の引き上げを含む採用層の拡大、地方公共団体や関係機関との連携・強化、任期満了退職後の公務員への再就職や大学への進学等に対する支援を充実する等の取り組みを是非行っていきたいと考えている」と語った。

 大規模災害時の自衛隊員らの活躍には感謝と敬意を表するが、そうした活躍と国を守るうえでの集団的自衛権行使容認とは全く別問題で、憲法9条に反する安保関連法については見直すべきところを見直し、「専守防衛」「必要最小限の防衛装備」の範疇にすることこそ、自衛隊員も安心し、誇りを持って職務に専念でき、自衛隊志願者の増加にもつながるだろう。2014年度からの採用計画割れの最大要因はここにあるといわざるを得ない。(編集担当:森高龍二)