「省エネ」誕生から半世紀。これからの省エネのカギを握るインバーターに宿る技術

2019年03月24日 11:23

画・エアコン

ロームが3月15日に発表した SuperJunction MOSFET「 PrestoMOS TM(プレストモス)」によって、インバーター搭載エアコンの省エネ化が、また進化しそうだ

 「省エネ」という言葉は、1973年の第一次オイルショックをきっかけに生まれたと言われている。それから46年。言葉はすっかり定着したものの、実際のところ、省エネは半世紀前よりも進化しているのだろうか。

 最も身近な「省エネ」といえば家電を思い浮かべる人は多いだろう。一つ一つの電力消費量は少なくても、それが積み重なれば山となる。とくに最近は環境意識の高まりとともに、省エネ性能の高い家電が人気だ。

 家電の中でもとくに省エネ性能が重視されるのが、エアコンや冷蔵庫などのモーター駆動の白物家電だ。世界の電力需要の内、50%近くがモーター駆動に使用されると言われている。しかも近年は、中南米、東南アジア、中東、東欧などの新興国での白物家電の需要が伸びており、モーター駆動による電力消費は益々増加する傾向にあると見られている。つまり、このモーター駆動の消費電力を抑えることができれば、世界規模での大幅な省エネが見込めるということだ。

 そこで重要となるのがインバーター回路だ。今や、ほとんどの家庭用のエアコンにはモーターの効率的な駆動を可能にするインバーター回路が搭載されているが、世界で初めて家庭用のインバーターエアコンが登場したのは1981年と、実はまだ歴史が浅い。意外にも、省エネという言葉よりもはるかに新しいのだ。開発したのは東京芝浦電気(現東芝キヤリア)だった。その後、メーカー各社でインバーター開発競争が起こり、1997年に日立が従来のインバーターよりもより強力な冷・暖房能力と、より優れた省エネ性能を兼ね備えた「PAM方式(パルス電圧振幅波形変調)」を採用したインバーターエアコン「白くまくん」Xシリーズを発表してからは、主流はこの PAM方式のインバーターとなっている。
 
 ところで、そもそも「インバーター」とは何だろう。インバーターとは、半導体を使った電力変換装置の1つで、モーターの回転を制御するものだ。エアコンの場合、簡単に言えば、細かな温度調節を可能にしているのがこのインバーターの能力なのだ。

 そして、ここでポイントとなるのがスイッチングだ。モーターの細かな制御を行うためには、それに対応するスイッチング素子をインバーターに搭載することが必要になる。現在、このスイッチング素子には一般的に IGBT (絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)というものが用いられているが、実は近年、ここでも新しい波が起こり始めている。その波とは、IGBT よりも低消費電力化に効果があるといわれるMOSFET への移行だ。

 MOSFETは、 IGBT よりも高速スイッチングや低電流域での導通損失が低いとったメリットがあるといわれている。

 例えば、先般、半導体メーカーのローム が発表した最新のMOSFET「PrestoMOSTM(プレストモス」は、 IGBTと比べて定常運転時の電力損失を約58パーセントも軽減できるという。これは、ローム独自のライフタイム制御技術を駆使することで、スイッチング素子が完全なオフ状態になるまでにかかる逆回復時間(trr)で業界最速を実現した成果で、エアコンに限らず、モーター制御のあらゆる電気製品において、今後の MOSFETへの移行を加速するものになりそうだ。

 「省エネ」という言葉が誕生してから、およそ半世紀。今や当たり前のように使っている言葉の裏では、様々な技術の歴史と、そこに携わってきた技術者たちの努力がある。普通に暮らしていていると家電の中を見る機会はほとんどないが、そこには日本の優れた技術者たちの熱いエネルギーの結晶が詰まっているのだ。(編集担当:藤原伊織)