直近5月の有効求人倍率は1.62倍で深刻な人手不足の状況が続いている。この人材難と官製春闘と呼ばれる政府の賃上げアナウンスや企業の業績改善を背景に賃金は上昇圧力で推移している。
人手不足倒産も目立ちはじめ、企業も人材確保のための賃上げから現従業員の離職を抑制するための賃上げに理由もシフトしつつあるようだ。今年に入って各種景況指標が減速傾向を見せているというものの空前の人手不足の中で企業は簡単には賃上げ圧力を払拭することはできないというのが実情であろう。
東京商工リサーチがインターネットを通じて行ったアンケート調査を5月9日から31日に実施し、7693社から有効回答を得て、この結果を2日、「2019年度・賃上げに関するアンケート」調査結果として公表している。
レポートによれば、「今年度賃上げを実施したか」という質問に対して回答企業7693社のうち6223社が「賃上げを実施した」と回答しており、その構成比は80.9%で全体の8割を占めている。
規模別に見ると、大企業では「実施した」と回答した企業は866社で構成比は81.5%、「実施していない」が196社で同18.5%となっている。中小企業では「実施した」が5357社で80.8%、「実施していない」が1274社で19.2%、賃上げを実施した企業の割合は大企業が中小企業を0.7ポイント上回っているというものの、規模の差に関係なく賃上げに積極的な姿勢が見られる。というものの最近の景気減速感を受けて大・中小企業全体での賃上げ実施企業の割合は昨年度に比べ1.3ポイントの減少となっている。
更に細かく、新卒者の初任給に限ってみると、その増額は大企業が25.4%で、一方中小企業では15.6%と大企業が中小企業を9.8ポイントと約1割も上回っており資本力の格差を見せつけている。賃上げ理由については、大企業の24.0%が「同業他社の賃金動向」を挙げており、体力を残して横にらみで動きながら人材確保に重心を置いているようだ。一方、中小企業では「雇用中の従業員の引き留め」が46.0%と約半数を占めており、離職の防止が主要な理由で、これは新たな付加価値創造へとはつながるものではないため、中小企業での賃上げは人件費高騰として経営への重石になっていると想像できる。
レポートでは「5月、日本商工会議所が最低賃金引き上げ反対を表明し、賃上げによる人材流出の抑制に限界も指摘されているが、中小企業は従業員の雇用継続が課題になっている」と指摘している。(編集担当:久保田雄城)