AIやIoTの普及に伴って、クラウドサービスへのニーズが急速に高まっている。IT専門調査会社IDCの調査によると、世界のパブリッククラウドサービスの市場規模は2018年に1830億ドル(約20兆円)、国内では前年比27.2%増の6688億円となった。また、日本国内では 2018年から23年までの年間平均成長率 は20.4%で推移し、2023年には2018年比2.5倍となる1兆6940億円にまで達すると予測している。
市場が急成長している背景には、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Googleなどのメガクラウドサービスの普及や、クラウドサービスにおけるセキュリティ性能や機能の向上が進んだことなどが挙げられるだろう。また、これらの発展によって、企業側の意識も変革されてきており、情報系システムやインターネット関連システム、開発環境などにおいて、クラウドサービス導入に抵抗がなくなってきたことも大きい。今や、ICTプロダクトは「自社で所有するもの」ではなく「クラウドで利用するもの」が常識になりつつあるのだ。
しかし、クラウドサービスが今後さらに発展する為には、解決しなければならない課題がある。データセンターなどで使用されるサーバーの大容量化・高性能化が進む中、発熱をいかに抑えるかという問題だ。
サーバーは高性能になればなるほど、また使用量が増加すればするほど、敷地面積当たりの電力消費量が上昇し、発熱量が増える。発熱量が増えると、システムは不安定になり、電源が突然落ちたり、再起動を繰り返したりといった熱暴走が起こりやすくなってしまう。
また、サービスによっては、アクセスが一時に集中し、予期せずサーバーがダウンしてしまうこともある。例えば、2020年東京五輪のチケットの抽選予約サイトでは、チケット販売サイトのサーバーダウンを避けるため、アクセスした人に順番待ちしてもらうシステムが導入されていた。アクセスの集中がある程度予想できるならば、こうした対策も有効なのかもしれないが、常時提供されているサービスの中で突発的なアクセスの集中を予測することは難しい。しかも、熱暴走を繰り返すことでシステムエラーや電子部品の寿命が短くなるリスクも高まる。
サーバーには大型の冷却ファンが取り付けられているが、それだけで放熱するのは不十分だ。そして、サーバーを設置する部屋自体にも冷却装置を設置する必要がある。当然、冷却に要する電気代も跳ね上がってしまう。こうした問題を防ぐために、高効率の電力変換器を用いてサーバー自体の電力消費量を抑え、発熱を低減させる対策が求められている。
そんな中、活用を期待されているのが、「SiC」を使った電子部品だ。8月28日には、ローム株式会社〈6963〉が、電気回路の開閉にともなう電力の損失、いわゆる「スイッチング損失」をSiC従来品比で35%も低減した産業機器向けSiC MOSFETを発表している
シリコン (Si) と炭素 (C) で構成される化合物半導体であるSiCデバイスは、これまでサーバーの電力変換回路において主流だったシリコン(Si)デバイスよりも電力損失が少ないことでしられているが、今回ロームが開発したSiC MOSFET 「SCT3xxx xRシリーズ」は、従来の3端子パッケージよりも端子が一つ多い4端子パッケージを採用し、パワーソース端子とドライバーソース端子を分離することで、高速スイッチング性能を最大限に引き出すことに成功。その結果、従来の3端子パッケージに比べても約35%の損失低減が見込めるという。
およそどんな電子機器においても、電気回路の開閉時には必ず、電気抵抗が起こり、それによって開閉器が発熱して電力が失われてしまう。家庭用のパソコンなどでは、問題にもされないほど微々たる損失だが、大容量、高性能のサーバーとなると話は別だ。わずかの損失低減が、低消費電力、ひいてはシステムの安心安全にもつながる。
また、このSiC MOSFETはサーバーだけでなく、太陽光インバータや蓄電システム、電動車の充電ステーションなどにも最適 だ。電力損失の低減に貢献するSiCデバイスは、これらシステム全般の普及を推し進める大きな力となりそうだ。(編集担当:藤原伊織)