EV車が充電から解放される日。走行中充電を可能にする、最先端の日本のタイヤ

2019年10月20日 12:19

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EV車が煩わしい「充電」から解放される日は遠くない! 東大の研究グループとロームやブリジストンなどの企業が参画する産学協同プロジェクトチームが、走行中充電を可能にする「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の走行実験に成功

 環境問題への関心とともに、需要を伸ばし続けている電気自動車(EV)。富士経済が8月に発表した調査によると、2021年には電気自動車の販売台数はハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を上回り、2035年には、現在のおよそ17倍にあたる2202万台にまで急成長すると見込んでいる。

 しかし、すでにPHVやHVなどを利用しているユーザーの中には、本当にEV市場がそこまでの成長を遂げるのかと疑問に思う人もいるかもしれない。その理由は「充電の煩わしさ」だ。EVは従来のガソリン車と比べて、充電の手間が圧倒的に面倒くさい。現在、日本全国には約2万件の充電ステーションが存在しているといわれているが、実際に使用しようとすると、まだまだ 少ないことを実感する。しかも、商業施設や宿泊施設、屋外駐車場などに設置されている電圧200Vのケーブルタイプの普通充電器では、約4時間充電しても80km程度しか走れない。高速道路のサービスエリアやガソリンスタンドに設置されている出力50kW の急速充電器でも、約15分間の充電で80km、約30分充電しても160km程度の航続距離だ。時間に余裕がある時ならまだしも、急いでいる時、長距離を走る際には考えものだ。ましてや、ようやくたどり着いた充電ステーションが混雑していたり、先客が使用している場合などは立ち往生になりかねない。

 そこで今、世界的な動きとして「走行中給電」システムの開発が活発になっている。単純に航続距離を伸ばすだけなら、バッテリー容量を増やすという方法もある。しかし、そうすることで車体が重くなり、走行に必要なエネルギーも増えてしまう。一台あたりの車両コストも高くなるし、バッテリー生産のための資源リスクの問題も生まれてくる。環境にやさしいはずの車が、これでは本末転倒だ。一方、走行中給電が実現すれば、バッテリー搭載量を少なくできるため、車体も軽くなり、走行に必要なエネルギーも抑えることができる。車両コストも下がるので、EV車普及の大きな追い風にもなるだろう。

 すでに欧米諸国でも走行中給電に向けた研究開発が始まってはいるものの、未だ黎明期。どこが最初に実用化できるかと注目されている中、日本では東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループらが進めるプロジェクトチームが 世界で初めて、受電から駆動までのすべてをタイヤのなかに埋め込んだ「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を開発し、実車での走行実験に成功している。

 同プロジェクトは、東京大学のほか、ローム株式会社〈6963〉、株式会社ブリヂストン〈5108〉、日本精工株式会社〈6471〉、東洋電機製造株式会社〈6505〉らからなる研究グループが産学共同で進めており、今回開発された「第3世代」は、2017 年3 月に東大グループらが発表した「第2 世代ワイヤレスIWM」をさらに発展させたものとなっている。

 「第2 世代」と大きく異なる点は2つある。まずモータ性能の大幅なクラスアップだ。「第 2世代」では軽自動車クラス( 1輪あたり 12 kW)だったのに対し、「第 3世代」では乗用車クラス( 1輪あたり 25 kW)を実現している。そして、車両への搭載性つまりサイズも改善している。「第2世代」は IWMユニットがホイールから飛び出していたが、「第 3世代」ではモータ設計の最適化と合わせて、ローム社製の超小型 SiCパワーモジュールを搭載することで、この課題を解決。軸方向にコンパクトなユニットを実現し、タイヤの中に収納することに成功している。

 2つめは、給電能力の飛躍的な向上だ。「第2世代」では走行中ワイヤレス給電の能力が1輪あたり10 kW程度であったのに対し、「第3世代」では20 kWまで性能が向上している。

 これらは、パワーデバイスや 電機設計、自動車部品等要素技術に長けている日本ならではの成果と言えるだろう。

 しかし、世界をリードするためには要素技術だけでなく、プラットフォームシステムを含んだ、すべての開発をさらに加速する必要がある。

 同プロジェクトでは、信号機手前の限られた場所に給電設備を設置すれば、走行中ワイヤレス給電インホイールモータを搭載した電気自動車のユーザは充電の心配をすることなく移動できるようになると試算している。充電からの解放は決して夢物語ではないのだ。

 また、同プロジェクトでは「第3世代」の実験と評価を継続しながら、新しいアイデアを盛り込んだ次世代機の提案と試作も意欲的に進めているという。さらに現在の参画メンバーだけに留まらず、オープンイノベーションを活用するなどして、他の企業や研究機関からの技術や知見も取り入れることで開発を加速し、2025年を目途に実証実験フェーズへの移行を目指している。EV車が充電から解放される日は、もうすぐそこに迫っているようだ。今後の展開に大いに期待したい。(編集担当:藤原伊織)