安倍晋三総理は立憲民主党、日本共産党、社会民主党などが2018年に国会に提出している「原発ゼロ法案」について、22日の衆院本会議で立憲・枝野幸男代表の代表質問に答え「気候変動問題への対応やエネルギーの海外依存度を考えれば『原発ゼロ』は責任あるエネルギー政策と言えない」とし、将来にわたって『原発を肯定』する考えを明確にした。
そのうえで「原発再稼働については独立性の高い原子力規制委員会が『世界で最も厳しい新規制基準に適合する』と認めた原発のみ(委員会の)判断を尊重し、地元の理解を得ながら(再稼働を)進めていくというのが政府の立場」と答弁。世界で最も厳しいことがいかにも安全を確保しているかのような表現を繰り返す。しかも、世界で最も厳しいのかに疑問の指摘が多数ある。
加えて、再稼働について語る際、常に「原子力規制委員会の判断を尊重し」と再稼働によって万一にも重大事故が生じた場合の責任追及には「独立性の高い原子力規制委員会の判断を尊重したもの」と言い逃れできる表現を忘れない。原子力規制委員会に責任転嫁するものだ。
原子力規制委員会の初代委員長・田中俊一氏が何度も説明したのは「委員会は原発が新規制基準に適合しているかどうかを判断するものであって『原発の安全を保障するものではない』。安全性を追求するために常に見直しが必要」というものであった。
再稼働が認められた原発でさえ、原子力規制委員会の判断過程に誤りや欠落があった、とする司法判断が出るくらいだ。今月17日、愛媛県にある四国電力伊方原発3号機の稼働について、広島高裁は「運転差し止め」の仮処分を決定した。
伊方原発の敷地から2キロメートル以内に活断層が存在する可能性が否定できない、としており、可能性が完全に消去されない限り「あらゆるものに優先して安全性を確保する」政府方針にてらしても、再稼働はしてはならない。原子力規制委員会は2キロ以内に活断層は存在しないとの四国電力の申請を追認していたとみられる。
加えて、地震だけでなく、火山噴火に関しても広島高裁は「噴火を過小評価」と指摘した。阿蘇山(熊本県)の大噴火に伴う火山灰の影響について、四国電力は過小評価し、その評価での判断は『不合理』とした。原子力規制委員会以上に司法は安全性について客観的な判断を下したといえよう。
安倍総理は原発再稼働が進まないため「東日本大震災前と比べ、電気料金が家庭用で約23%アップした」などと述べた。再稼働を進める一つに電気料金の上昇による家計負担をあげるが、2~3割アップで原発ゼロが実現するなら、多くの国民は受忍できるだろう。福島第一原発事故の甚大な被害、将来への懸念、処理の莫大な費用、生態系への影響などなど、取り返しのつかない危険を体験しているではないか。
それでも安倍総理は、原発再稼働はもちろん、経済政策、社会保障でも歩調をあわせる日本経済団体連合会の要請に合わせエネルギー政策路線をすすむ可能性が高い。さきの参議院選挙直前の日本記者クラブ主催党首討論で自民党、公明党、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社会民主党、日本維新の会の党首が出席の下で「原発の新増設は認めない」との問いかけに「イエス」としなかった唯一の人物が安倍総理だった。
経団連は新増設への環境づくりに今年から本格的に動き出す意向を見せている。安倍総理はこれを受け入れる余地を残した。
一方で、政府・与党は2018年に法案が提出されている「原発ゼロ法案」を棚さらしにし、審議入りしようとしない。法案の骨子は(1)すべての原発を速やかに停止し、法施行後5年以内に廃炉を決定する(2)原発の再稼働はせず、新増設・リプレースは認めない(3)使用済み核燃料再処理・核燃料サイクル事業は中止する(4)放射性廃棄物・プルトニウムの管理と処分を徹底する(5)原発から省エネルギー・再エネルギーへシフトする、というもの。
政府・与党は不都合な法案は審議入りをせず、改憲など自身が望むことだけは審議を求める「ご都合主義」から脱却すべきだ。枝野代表は「世界の電力の4分の1は自然エネルギーで作られ、原子力発電の2倍にあたる。自然エネルギーのコストは大幅に下落し『原発ゼロはまさにリアリズム』。地域分散型の再生可能エネルギーや住宅断熱化等は地方の活性化にもつながる」と主張。いずれの進路が国民と世界の動き、地球環境、あらゆる生態系のためになるのか、国会で真剣に議論することこそ、国会議員の責務、と言いたい。(編集担当:森高龍二)