自動車業界は今、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、生産台数の大幅な減少が予想されている。しかし、他の飲食業界や旅行関連の業界に比べると、それほど大きな悲壮感は漂っていないようにみえる。その理由の一つとしては間違いなく、自動車の未来を大きく変える自動運転技術の市場投入が活発化してきたことが挙げられるだろう。
自動運転技術は自動車側のアシストの度合いによって、レベル0~5の6段階に分けられている。レベル0は、ドライバーがすべての操作を行う状態、レベル5は場所、条件に関係なく自動運転が可能な、いわゆる完全自動運転の状態である。
富士キメラ総研がまとめた「2020 自動運転・AIカー市場の将来展望」によると、自動運転車の市場は2021年以降、大幅な拡大が予想されている。2045年にはレベル2以上の車両は1億3552万台に達し、レベル3車両も、その内の4000万台以上を占めると見込まれている。いずれはレベル3、そしてそれ以上のレベル4、レベル5の完全運転自動化車両なども登場すると見られるが、それが実現するまでには、技術面だけでなく、関連する法律やインフラの整備に時間を要するため、当面はレベル2車両が市場をけん引していくとみられている。
では、 レベル2の車両とはどんなものなのだろうか。
レベル2の車両に搭載されているのが先進運転支援システム、通称「ADAS」と呼ばれるものだ。代表的なものでは自動ブレーキがある。ADAS以前、自動車に搭載されていたブレーキの安全装置システムといえば、ブレーキを急に強く踏むと作動するABSや、車に強い衝撃が加わると作動するエアバッグなどだった。自動ブレーキの場合、走行している自車の速度と前方の車や障害物の距離などを計算し、「衝突の危険性がある」と判断した場合にはドライバーの操作がなくても、システムが自動でブレーキをかける。つまり、ADASは、ABSやエアバッグなどのように「何かが起きてから」作動するものではなく、「何かが起きる前」に作動することで、運転者の安全走行をサポートするものなのだ。ドライバーの負担軽減はもちろんのこと、近年社会問題となっている高齢ドライバーなどの事故減少にも期待できるだろう。
関連するメーカー各社の動きも世界中で活発になってきている。例えば、ドイツを本拠に置く世界的な総合自動車部品メーカーのボッシュは、ADASの根幹となるカメラやレーダーなどのゼロポジション(基準点)をシステムに正確に認識させるADASエーミング作業に優れた整備工場を認定する「ボッシュADASエキスパート サービスショップ」認定制度を開始した。ADAS自体がまだまだ新しい技術のため、整備工場でもその技術レベルは一定とは言い難く、オーナーがそれを判別するのは不可能に近い。そこでボッシュでは、同社の認定講習を受講したうえで、作業環境審査に通った整備工場を「ボッシュADASエキスパートサービスショップ」と認定し、ロゴを提供することで、車両のオーナーがADASを的確に整備してくれる工場を判別し、より安心して適切な整備を受けられる環境を構築しようとしているのだ。
ADASが今後も普及し、最終的に完全自動運転へと発展していくための大前提として、便利さよりも安全性がある。システムの不具合による事故を限りなくゼロにするためには、システムの信頼性を高める「機能安全」のアプローチは欠かせない。そこで策定されたのが、車載電子制御の機能安全に関する国際規格「ISO 26262」だ。
日本の半導体メーカーでいち早く、このISO 26262の開発プロセス認証を取得したのがローム株式会社〈6963〉だ。同社では2017年より機能安全対応の高精細液晶パネル用チップセットを提供し、2019年には業界初の自己診断機能を内蔵した電源監視ICの提供を開始するなど、「機能安全」をサポートする数々の取り組みを業界に先駆けて進めており、世界的にも注目を集めている。
かつて、日本の戦後経済を復興し、繁栄へと導いた自動車産業。世界からの信頼も厚い日本の技術力がADASや自動運転車の市場で確固たる地位を築き、このコロナ禍で冷え込んだ景気を立て直す大きな力になってくれることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)