ヤマハ発動機が2010年に発売したスマート・ミニマム コミューター”をコンセプトとする電動バイク「EC-03(イーシー・ゼロスリー)」は、今秋から台湾市場での販売もスタートし、順調に売り上げを伸ばしている。製造台数も大規模ではなく、作業工数も少ない「EC-03」は様々な効率を考え、従来のライン生産方式ではなく、少人数で1台の車両が完成するセル生産方式で製造しているという。
同社は本年度、本社工場の二輪車組立工程を現在の需要規模に合わせて全面的に見直し、それまでエンジン組立と車体組立合わせて21ラインあった製造ラインを合計6ラインに統合。その内訳は、台数の多いモデルの生産を担う分業流れラインが4本、組立工数120分以上で量の少ない大型モデルを組み立てるショートラインが1本、そして小型・少量モデルを担当するセル生産を1本としている。これらは再編の指針となった「スリムな工場」「シンプルな運営」「プロフェッショナルな集団」というキーワードを突き詰めた結果だが、生産台数と作業工数がともに少ない「EC-03」は、まさにセル生産方式に適した製品の一つといえる。
「EC-03」は、1台分の部品を一つのかたまり(キット)として受け取ったゼロの状態から、2人1組の作業によって車両が完成するまでに要する時間は約22分。工程の半分が経過したところで左右の担当者が入れ替わり、効率よく、また2人の目で厳しく確認を行いながら組み上げられ、完成した車両はそのまま完成検査場へと持ち込まれる。「大人数で役割分担を行なうライン作業とは異なり、少人数で1台の車両を完成されるセル生産方式では、作業者にもひと際高いスキルと知識が求められます。だからこそ、この職場が”匠のライン”と呼ばれているのです」とセル生産部門の管理責任者。同社には”匠認定制度”という社内基準があり、この資格を取得した従業員しか匠のラインに加わることはできない。現在は8人(4組)がこの職務に当たっている。
この8人の匠は、すべて女性で構成されているというから面白い。これは女性ならではの繊細さが活きる仕事であると同時に、女性従業員全体のモチベーション向上にもつながると考えているからだ。実際、匠の一人は「1台の製品を二人で責任を持って組み上げるため、完成した瞬間の達成感は以前のラインでは味わえなかった」と話し、また「工程のある一部ではなく、二輪車組立に必要なすべての工程を習得できる」という向上心に溢れる声も聞かれている。
同社はユーザーに提供する最終商品を実感しつつ製造できるセル生産は、作業者の意欲が高まり、品質の向上につながると考えているようだ。そのため、セル生産を採用しているのは、国内の二輪車組立工場だけではない。今夏にはブラジルの工場でも船外機のセル生産が開始。早くも「従業員の責任感や士気が上がっている」という声が聞かれ、現地での人材育成にも一役担うと考えられる。