イギリスのグラスゴーにおいて、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26)が終了したのは記憶に新しい。地球の気温上昇幅を1.5℃に抑えるという目標が正式合意され、今後、各国の取り組みに注目が集まる。国のみならず、ビジネスや投資においても、いわゆる環境問題は重要視されている。企業の価値は、環境問題に対して如何に取り組んでいるかによって左右されると言っても、もはや過言ではない時代だ。
近年、気候変動に加えて、新たに世界が注目し始めているのが、生物多様性の保全だ。環境破壊や都市化に伴い、緑地が減ることにより、生物や植物の個体数が減少の一途を辿っている。そういった状況を踏まえ、2021年6月に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が発足、10月には生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、国内でも官民一体となった議論が本格化している。そのような社会背景の中、日本企業の20年間の取り組みが注目を集めている。その企業とは、大手ハウスメーカー・積水ハウスだ。
積水ハウスでは、世界が問題意識を持つ以前の2001年から、顧客の庭において、生態系に配慮した造園緑化事業「5本の樹」計画を開始した。「3本は鳥のために、2本は蝶のために、地域の在来樹種を」をスローガンに、その地域の気候風土・鳥や蝶などと相性の良い在来樹種を中心とした植栽にこだわった庭づくり・まちづくりの提案してきた。その結果、植樹本数は、2001年から2020年までの20年間で累計1,700万本以上にものぼる。この積み重ねた実績が、これからの生物多様性の保全に向けて、重要な役割を果たしそうなのだ。
気候変動やCO2排出量など、数値化できるものは問題意識も持ちやすく、目標も設定しやすい。一方、生物多様性の取り組みに関しては、数値化することが難しく、問題意識も持ちにくいという課題があった。そこで積水ハウスは、20年間で顧客と取り組んだ「5本の樹」計画の成果を、琉球大学と共同検証し、世界初となる都市の生物多様性を定量評価する仕組みの構築に成功したのだ。
20年間のビッグデータの分析結果によると、生物多様性の劣化が著しい三大都市圏(関東・近畿・中京)において、生物多様性の基盤となる地域の在来種の樹種数が10倍、住宅地に呼び込める可能性のある鳥の種類は約2倍、蝶の種類は約5倍になった。定量評価の仕組みは、生物多様性保全の推進に役立つ「ネイチャー・ポジティブ方法論」として、11月26日より公開されている。この仕組みが広く活用されることで、生物多様性保全の問題が顕在化し、企業を含めた民間の取り組みが可視化することで、問題解決に向けて前進する事が期待されている。
先日行われた積水ハウスの会見上で、印象深い言葉があった。20年間集めた情報を開示することを巡り、社内で議論になった際、「1社で取り組んでも問題解決には至らない」という社長の一声で、情報開示に踏み切ったそうだ。積水ハウスの仲井嘉浩社長は、生物多様性保全の取り組みを社会に広げていくため、「私たちが20年間の活動を通じて蓄積したノウハウを共有させていただきたい」と話した。まずは問題を数多くの人々と共有し、認識することが重要だ。今まではわかりにくかった問題も、定量化することによって、世界共通のモノサシが整ったと言えるだろう。今後の生物多様性保全の新たな展開に注目していきたい。(編集担当:今井慎太郎)