絶対にあってはならないことが起きた。元総理の安倍晋三衆院議員が選挙応援遊説先の奈良県奈良市・近鉄大和西大寺駅近くで演説を始めた1分後の8日11時31分頃、元海上自衛隊隊員の男に銃撃され、搬送先の奈良県立医大付属病院で17時過ぎ、死亡が確認された。
安倍氏は銃撃で右頸部に銃創、出血、左胸皮下出血の心肺停止状態になり、救急隊が心肺蘇生措置を施して、ドクターヘリで橿原市内の県立奈良医大付属病院に搬送され、集中治療室で治療を受けていた。「こころより、ご冥福をお祈りしたい」。安倍氏にとっては改憲が生存中にできなかったことは無念だったろうと察する。
銃撃したのは奈良市内に住む山上徹也容疑者(41)。殺人未遂の現行犯で逮捕されたが、殺人容疑で取り調べを受けることになった。動機について、山上容疑者は政治信条での恨みではない、政治信条以外の安倍元総理の態度に不満を持っていたと供述しているという。どのような不満があったのか、明らかにされることを強く期待する。
ただ、暴力によって自身の思いを遂げようとするのは民主主義への挑戦、絶対にやってはならない、許されない。厳しくその責は問われることになるだろう。
一方、事件発生当初から気になったのは、警護の問題。安倍氏を巡っては総理当時、札幌市内での選挙応援遊説先でプラカードを持って抗議したり、ヤジを飛ばすだけで道警が取り囲み、その場にいた人物を遠ざけるという「公然と政治家を批判する表現の自由」が危ぶまれる事態が発生していた。総理への忖度で、やりすぎだとの批判の声も相次いだ。
今回、元総理の立場ではあるが、自民党最大派閥の長であり、防衛では「敵基地攻撃能力保有」や「防衛費の倍増」など、自説では「核共有」まで強調し、党内に発言力、影響力を持ち続けた人物。奈良への遊説は前日夕に急遽決まったようだが、暴漢などからの警護態勢に不備がなかったのか。
演説現場は安倍氏の背後がノーガードで、SPも警護もありながら、なぜ、背後約5メートルの至近距離から銃撃できたのか。警察庁幹部は「どういう警備態勢だったのか、検証していく」とした。奈良県警本部は幹部が記者会見し「(事態を)重大に受け止めている」とし「全容解明に捜査を尽くしたい」とした。
このような事件の再発を防ぐため、徹底検証を期待する。総理・閣僚はもちろん、各政党幹部にしても、このような殺人事件が発生するようであれば、スーツの中に「防弾チョッキ」を備えなければ街頭演説もできない世の中になる。要人警護にあたる方々の大変さはそれなりに推察される。しかし、より万全を期した警護をお願いしたい。そのため、警護の在り方を徹底検証してほしい。合掌(編集担当:森高龍二)