【コラム】「マゲシカ」など生態系保護最優先に考え工事を

2023年01月15日 10:00

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島に生息する貴重な生態系への影響を最小限に食い止めるために最大の手立てと配慮の下で慎重な工事を希望する

 環境省のレッドリストに入っている「マゲシカ」や天然記念物のオカヤドカリ類、エラブオオコウモリ、アオウミガメなどが生息する鹿児島県西之表市「馬毛島」で自衛隊基地の本体工事が動き出した。工期は4年程度とされる。島に生息する貴重な生態系への影響を最小限に食い止めるために最大の手立てと配慮の下で慎重な工事を希望する。

 合わせて、地元民はもちろん、全国民にも分かり易い、透明性の高い情報提供を常に行っていくことが馬毛島基地建設への国民の理解を広めるうえで必要だ。騒音問題への懸念にも誠実な対応を期待する。

 基地は自衛隊のF35B戦闘機離発着訓練をはじめ、アメリカ空母艦載機の離発着訓練基地として使われる。また島嶼部攻撃への対処活動、災害発生時の一時的な集積・展開地としても活用する。基地には約200人が常勤。米軍は訓練期間中のみの滞在で常駐することはない。

 訓練基地として全長2450mの主滑走路や全長1830mの横風用滑走路、格納庫や燃料施設、飛行場支援施設、火薬庫、F35B模擬艦艇発着訓練施設、不整地着陸訓練施設、港湾施設などが設けられる。

 一方、島の南西部訓練区域については現時点では施設整備を行う計画はないという。ただ基地開設後には必要に応じ離発着訓練施設増設の可能性を含んでいる。

 完成すれば自衛隊が年間約2万回、米軍が約5000回の飛行訓練を想定している。このうち自衛隊には夜間飛行訓練はないが、米軍は約560回の訓練を予定。

 戦闘機の爆音と夜間照明が生態系にもたらす影響をはじめ、種子島から直線距離で約13キロしか離れていない種子島住民らへの騒音の影響が出ないよう対処していく方策を徹底するとともに、日本の安全保障とパイロットの安全性確保に欠くことのできない基地であることへの理解を得て行ってもらいたい。

 いかに優れた戦闘機も、気象条件や昼夜の違いなど、様々な条件下での訓練を常に重ねなければ戦闘機の性能を活かせない。訓練不足は不慮の事故につながりかねず、パイロットを意味なく危険に晒すことになる。訓練のための基地建設は南西諸島防衛上も欠かせないものになっている。

 離発着訓練の空域は島から半径10キロ圏内となっているが、自衛隊は必ず守るとしても、米軍が徹底するのか、そこにも厳守する日米間でのルール厳守構築が求められよう。

 マゲシカについては(1)生息地となる樹林地等の改変面積を可能な限り低減し、連続性を確保すること(2)マゲシカの餌資源となるシバ群落や樹林地、水飲み場等の再生、創出をすること(3)工事中、また供用後においても、生息状況等に係る調査を行い、結果を踏まえて適切に環境保全措置を講じることが求められている。環境アセスに誠実に対応していくことこそが、基地への理解を得られる最低限の仕事と政府に強く訴えておきたい。基地開設後に訓練する自衛隊員らのためにも、その努力を決しておざなりにしてはならない。

 政府側は「マゲシカの生息範囲の確保、生息環境を改善するための裸地の緑化といった保全措置を講じる。工事中及び供用後の状態把握をするため、事後調査として個体数モニタリングをする。個体数のモニタリング等の事後調査結果を踏まえ、必要に応じ、専門家等の指導・助言を得て、必要な措置を検討し、適正に実施する」と回答している。

 また「森林等の改変面積については可能な限り縮減する。馬毛島における自衛隊施設の整備は環境影響評価法を順守し、環境に適正に配慮して進めていく」と回答している。基地開設後の騒音や夜間照明など生態系への影響を常に意識し、決して対応が遅れることの無いよう、迅速な対応を怠らないよう、特に求めたい。(編集担当:森高龍二)