5月9日、京都市とその周辺に本社があるローム、村田製作所、日本電産改めニデックの電子部品「京都3社」の2023年3月期決算が出揃った。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻はいまだ先が見えず、コロナ禍から着実に回復していた世界経済に大きな影響を及ぼした。エネルギー価格の高騰、インフレ、金利上昇が欧米や中国での景気後退を招き、スマホ、PCの需要減退がエレクトロニクスの景況を冷やした。堅調なEVなどモビリティ需要が下支えになっても電子部品マーケットは縮小を余儀なくされた。「京都3社」の業績もそれと無関係ではなく、ロームは増収増益でも村田製作所は減収減益、ニデックは増収減益と、三社三様の決算内容になった。
■ロームは2年連続過去最高売上高。増収増益を維持
ロームの2023年3月期本決算(日本基準)は、売上高は12.3%増の5078億円で初めて5000億円を突破して過去最高更新。営業利益は29.2%増の923億円、経常利益は32.7%増の1095億円、当期純利益は20.3%増の803億円で、電子部品業界を取り巻く環境が良くない中、前期の2ケタ増収増益、経常3ケタ増益の勢いからは減速したものの増収増益決算を維持した。為替の円安傾向が増収増益に寄与している。1株当たり当期純利益は前期からさらに138.03円上乗せして818.65円。年間配当は前期比15円増配の200円を予定する。
セグメント別では、LSIの売上高は前年同期比14.6%増、セグメント利益は46.0%増と好調を維持。自動車用ではEV(電気自動車)の普及加速で絶縁ゲートドライバICなど高付加価値商品が伸び、ADAS、インフォテインメント向けの電源ICが引き続き好調だった。産業機器ではエネルギー関連向け、PC市場ではSSD向け電源ICが堅調にシェアを拡大し、「アナログ半導体のローム」の面目躍如という結果だった。
半導体素子は売上高12.8%増、セグメント利益5.4%増で、絶好調だった前期の勢いはなかったものの増収増益基調を保っている。トランジスタ、ダイオード、パワーデバイスが「xEV」を中心に自動車関連が引き続き好調で、産業機器でも太陽光発電向けが堅調だった。発光ダイオードはアミューズメント関連を中心に増収だったが、半導体レーザーは民生機器関連で減収に転じている。
モジュールはプリントヘッドが事務機器向けを中心に好調で、オプティカル・モジュールの減収を補って売上高は4.5%増だったが、前期絶好調だったセグメント利益は3.6%減で減益に転じている。
その他の分野は売上高1.1%増、セグメント利益1.4%増とわずかな増収増益で着地。抵抗器は自動車向けの高電力抵抗、シャント抵抗のような高信頼品が堅調で増収を下支えし、損益面は為替の円安に支えられていた。
2024年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比6.3%増の5400億円だが、営業利益は18.8%減の750億円、経常利益は20.6%減の870億円、当期純利益は12.9%減の700億円の増収減益予想となっている。減益の要因としては為替の影響もあるが、ここ数年の積極的な設備投資により、当期の減価償却費が前期比50%増の840億となることが大きい。予想1株当たり当期純利益は105.4円減の713.25円。予想中間配当は100円、予想期末配当は100円、予想年間配当は200円で、いずれも前年同期比で据え置きを見込む。想定為替レートは1米ドル=130円を見込んでいる。
今期は部品供給不足の解消による自動車生産台数の回復と、PC・ストレージ市場が下半期からの復調を見込んで増収を維持できると見込むが、利益面では、前述の通り、現時点で減益を予想している。減価償却費の増加が重荷になるが、今期の設備投資も1,600億円と過去最高の更新を見込む。当面、利益面は厳しい部分もあるが、中長期の成長拡大に向けた地盤固めを優先している形だ。とりわけ電動化、電装化が進み、ローム得意の「パワー」と「アナログ」を武器にできる自動車市場への期待は大きい。今期も社内外の期待が大きいSiC事業を中心に生産能力増強を図るとともに、あらゆる事業で省人化、自動化、品質管理のグレードアップなど「モノづくり改革」を推進していく考えだ。
■村田製作所はPC、スマホの市場低迷で減収減益
村田製作所の2023年3月期本決算(米国基準)は、売上高は6.9%減の1兆6867億円、営業利益は29.8%減の2978億円、税引前当期純利益は27.2%減の3148億円、当期純利益は19.2%減の2536億円の減収減益決算となり、2ケタ増収増益だった前期から業績が激変した。1株当たり当期純利益は前期比89.62円減の401.33円。それでも期末配当は前年同期比5円増配の75円、年間配当は前期比20円増配の150円と増やしている。
コロナ禍から回復途上だった世界のエレクトロニクス市場を2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻が直撃。EVを軸に自動車生産台数は引き続き増加してモビリティ向け需要は堅調だったものの、PC、スマホ向け需要が先進国、中国での個人消費の減退、在庫調整の影響などで減少し、それが村田製作所の前期業績に大きな影響を及ぼした。
用途別売上高は、通信16.4%減、モビリティ16.0%増、コンピュータ24.6%減、家電8.0%増と、明暗がくっきりと分かれている。
事業セグメント別売上高はコンポーネント7.1%減、デバイス・モジュール6.6%減、その他11.6%減と全てが減収で、製品分野別の増収はリチウムイオン二次電池が好調だったデバイス・モジュールセグメントのエナジー・パワー(18.9%増)のみにとどまった。コンポーネントのセグメントは主力製品のコンデンサ(6.3%減)もインダクタ・EMIフィルタ(10.4%減)もPC、スマホ向けの減収が目立っている。デバイス・モジュールのセグメントは高周波・通信分野が表面波フィルタ、高周波モジュールなどスマホ向けを中心にふるわず14.1%の減収になり、センサ、タイミングデバイスなど機能デバイス分野もPC向けが悪化し12.8%減だった。
2024年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比2.8%減の1兆6400億円、営業利益は26.1%減の2200億円、税引前当期純利益は30.1%減の2200億円、当期純利益は35.4%減の1640億円と、2期連続の減収減益決算になると予想している。予想1株当たり当期純利益は前期比140.9円減の260.43円。ただし、2024年3月期では連結財務諸表の決算基準を従来の米国基準からIFRS(国際財務報告基準)に改めて任意適用するため、前期比の数値の増減はあくまでも参考値になる。設備投資額は前期比5.7%増の2200億円、研究開発費は4.6%増の1300億円を見込んでおり、業績予想は厳しくても将来に向けての積極投資姿勢は崩さない。為替レートは1米ドル=127円を想定。予想中間配当は前年同期比据え置きの75円、予想期末配当も前期比据え置きの75円、予想年間配当は前期比据え置きの150円を見込んでいる。
村田製作所の長期構想「Vision2030」では「ムラタのイノベーションで社会価値と経済価値の好循環を生み出し、豊かな社会の実現に貢献していきます」を「2030年にありたい姿」とし、基盤事業の深化とビジネスモデルの進化、「社会価値と経済価値の好循環を生み出す経営」「自律分散型の組織運営の実践」「仮説思考にもとづく変化対応型経営」「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」の4つの経営変革の実行によって「Global No.1部品メーカー」を目指すとしている。
■増収減益のニデックは過去最高益更新の強気見通し
4月1日に日本電産から社名を改めたニデック(Nidec)の2023年3月期本決算(国際会計基準/IFRS)は、売上高は16.9%増の2兆2428億円で初の2兆円台乗せだったが、営業利益は41.3%減の1000億円、税引前利益は29.1%減の1205億円、当期利益は66.9%減の450億円という増収ながら減益の決算になった。構造改革費用として約757億円を計上している。
1株当たり当期利益は前期の232.40円の約3分の1の78.13円になったが、期末配当は前年同期から据え置きの35円、年間配当は前期比5円増配の70円だった。
製品グループ別では、創業以来の「精密小型モータ」部門は、HDD用モータが販売数量を大きく減らし、円安効果で相殺されても外部売上高は20.6%の大幅減収だったが、その他の小型モータは円安で前期比プラスになり、トータルではかろうじて0.1%増の増収だった。営業利益は円安効果は出ても構造改革費用56億円を計上したために37.1%減益で着地している。
「家電・商業・産業用」は外部売上高16.2%増ながら営業利益9.4%減の増収減益だった。増収に寄与したのは中・大型案件の受注が増えた発電機事業で、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー需給ひっ迫が背景にある。約124億円の構造改革費用が利益を圧迫している。
自動車の電動化(EV化)の追い風を受けてきたニデックの最重点分野「車載」は、トラクションモータシステム「E-Axle」の受注が好調で外部売上高24.4%増でも、構造改革費用の計上が約541億円と多く、前期も大幅減益だった営業損益は今期422億円の赤字になり、これが決算全体の利益の足を引っ張っている。
5G向け需要が好調な半導体検査装置、製缶プレス機が伸び、工作機械事業への参入効果も出た「機器装置」は、外部売上高37.5%増、営業利益10.4%増と比較的堅調だった。「電子・光学部品」は外部売上高19.1%増、営業利益23.1%増、「その他」は外部売上高16.2%増、営業利益41.9%増で、どちらも手堅く収益をあげている。
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰、慢性的な半導体不足、欧米の金融不安、中国のEV需要の頭打ち、ヨーロッパのEV化戦略の変化など前期から状況が変わってきても、ニデックは「コストは技術が造る」という考えのもと技術力で圧勝できる製品開発を実施し、全社的な原価改善、固定費の大幅低減を推進する「WPR-Xプロジェクト」の手をゆるめなかった。構造改革で得た利益を次世代の製品開発投資につぎ込むモデルはゆるがない。
2024年3月期の通期業績見通しの売上高は前期比1.9%減の2兆2000億円だが、営業利益は119.8%増(約2.2倍)の2200億円、営業利益率はジャスト10%、税引前利益は74.1%増の2100億円、当期利益は266.6%増(約3.6倍)の1650億円で、V字回復で前期かなわなかった過去最高益更新を狙う強気の見通し。予想1株当たり当期利益も過去最高の287.08円。予想中間配当は前年同期据え置きの35円、予想期末配当は前年同期据え置きの35円、予想年間配当は前年同期据え置きの70円としている。
京都先端科学技術大学を設立し、2022年にCEO(最高経営責任者)に復帰した永守重信会長は、代表取締役社長執行役員を関潤氏から小部博志氏にすげ替え、工作機械事業に新規参入し、社名も変えて心機一転。後継者問題は不透明で前期は減益決算を余儀なくされたが、M&Aを駆使する大胆で強気な経営姿勢は崩さない。2027年3月期のEV関連事業の売上高を前期比約13倍の7000億円に伸ばすという新たな目標も掲げた。(編集担当:寺尾淳)