「いつもと違う」を数値化して、故障を予知。超低消費電力のオンデバイス学習AIチップの可能性

2022年11月13日 08:55

評価ボード写真_オンデバイス学習AIチップ

AIならばデータベース化された膨大なデータをもとに判断を下すので、一度学習しておけば、些細な予兆でも見逃してしまうようなリスクは格段に減る

 産業や商業のあらゆる業種、場面において、自動化やIoT化が加速している。ロボットの導入でオートメーション化が進み、便利で正確、スピーディーな作業が行われるようになっただけでなく、厳しい環境下や危険な場所での作業もしやすくなってきている。

 そして、その根幹を担うのがAI。人工知能の活躍だ。

 AIは飛躍的かつ急速に進化を遂げており、それに伴って市場も拡大し続けている。

 IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社の市場予測によると、2021年の国内AIシステム市場規模は2771億9000万円。前年比成長率26.3%となっている。また、新型コロナウイルス感染症によって鈍化していたAI プロジェクトが再び動き出したことで、2022年は前年比29.0%増の3576億3400万円に伸長すると予測。2021年~2026年の年間平均成長率は24.0%で推移し、2026年には8120億9900万円に達すると見込んでいる。

 近年のAI技術の進歩には目を見張るものがあるが、中でも今後、さらに躍進すると期待されている分野が「故障予知検知」だ。AIは一般的に、人間が行う知的活動を人間の代わりにコンピュータプログラムとして実行するもので、その機能を実現するためにデータを収集して学習し、その学習した情報から推論を立てて、最適な方法を実行する。

 人間が何か判断を下すときには、どうしても個々の経験や勘に左右されてしまうものだ。また、個人の性格やセンス、体調などによっても大きな差が開いてしまう。普段の作業なら、人間ならではのその柔軟性が優位にはたらくこともあるだろうが、正確な判断が求められるような場面、例えば、機器類の停止につながるような不調や故障の予兆などを見逃したりすれば、工場や生産ラインの停止にもつながりかねない。

 その点、AIならばデータベース化された膨大なデータをもとに判断を下すので、一度学習しておけば、些細な予兆でも見逃してしまうようなリスクは格段に減る。

 ただ、膨大なデータを取り込んでデータベース化し、しかもそれを随時更新する必要があるため、学習を行うAIチップには高い演算能力が求められると同時に消費電力も大きくなってしまう。このことから、クラウドコンピュータ向けに高性能で高価なAIチップが次々と開発される一方で、より効率的なIoT社会構築のカギとなるエッジコンピュータ・エンドポイント向けに省電力で現場学習できるAIチップの開発は困難とされていた。

 そんな中、電子部品大手のローム株式会社が、クラウドサーバーを介さずにモーターやセンサなどを搭載する電子機器の故障予知を超低消費電力かつリアルタイムで実現できるオンデバイス学習AIチップの開発を発表し話題となっている。

 同社が今回開発したAIチップは、慶應義塾大学の松谷教授が開発した「オンデバイス学習アルゴリズム」をベースに商用化に向け開発したAIアクセラレータ(AI専用ハードウェア演算回路)と、ロームの高効率8-bit CPU「tinyMicon MatisseCORE(TM)(以降、Matisse)」を中心に構成されるもので、2万ゲートの超小型AIアクセラレータと、高効率CPUとの組み合わせにより、わずか数10mW(学習可能な従来AIチップ比で1000分の1)の超低消費電力で学習・推論が可能だという。クラウドサーバーとの連携なしに、機器が設置された現場で未知の入力データに対して「いつもと違う」を数値化して出力できるため、幅広い用途でリアルタイムの故障予知を実現することができるのだ。

 本AIチップは、2022年10月に開催された「イノベーション・ジャパン2022」「CEATEC 2022」にて松谷教授の研究成果としても紹介されており、今後の業界の反応が楽しみである。ロームでは、2023年度に製品化に着手し、2024年度に製品として量産を予定しており、製品化されれば大きな需要を獲得しそうだ。

 未だに「AIに仕事を奪われる」とか「AIに柔軟な判断はできない」というような否定的な意見もあるが、人の曖昧さをAIが補うことができれば、世の中はもっと豊かになるだろう。AI技術のさらなる発展に期待したい。(編集担当:今井慎太郎)