京都市やその周辺に本社を置く日本電産、村田製作所、ロームの電子部品「京都3社」の4~9月期(第2四半期)中間決算が11月1日に出揃った。「脱炭素」「xEV」「二次電池」「パワー半導体」のような需要が高まる技術テーマが期待されながら、「原材料高騰」「欧米のインフレ」のような逆風も吹き、村田製作所は通期減益見通しで日本電産には「後継者人材難」の懸念も浮上した。逆風を追い風に変えられるか、各社の次の一手が注目される。
■日本電産は円安で最高益更新だが後継者問題浮上
日本電産の4~9月期決算(国際会計基準/IFRS)は、売上高は24.2%増の1兆1307億円、営業利益は8.1%増の963億円、税引前利益は35.9%増の1183億円、四半期純利益は30.1%増の866億円と増収増益だった。中間配当は前年同期から5円増の35円。4~9月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は52.5%だった。売上高、営業利益は過去最高を更新し、営業利益は外貨建て資産の評価益もあり約170億円の円安効果が出たという。
カテゴリー別では、創業以来の製品グループ「精密小型モータ」のうち、HDD用モータは14.2%減収でもその他小型モータは18.1%増収で、トータルでは外部売上高10.3%増、営業利益4.1%増だった。伸びたのはIT用ファンモータ、高効率の家電用モータ、ゲーム機などのサーマルソリューション商材で、為替の円安が約59億円の増益効果をもたらしている。xEV需要を担う最重点分野の「車載」は外部売上高28.9%増ながら営業利益は34.5%の減益。トラクションモータシステム(E-Axle)の販売拡大に約229億円の円安効果が加わって増収でも、開発費負担が重く利益減。それでも7~9月期は3四半期ぶりに黒字転化した。「家電・商業・産業用」は外部売上高19.9%増でも営業利益は5.5%減。円安効果が世界的な原価高騰の影響を吸収しきれなかった。半導体検査装置、製缶プレス機が増収で新たに工作機械事業にも参入した「機器装置」は外部売上高60.8%増、営業利益43.8%増と好調。「電子・光学部品」は外部売上高25.2%増、営業利益73.1%増、「その他」は外部売上高11.8%増、営業利益19.9%増だった。
通期業績見通しは修正なし。売上高は9.5%増の2兆1000億円、営業利益は23.3%増の2100億円、税引前利益は21.2%増の2060億円、当期純利益は21.5%増の1650億円と増収増益。期末配当予想は前期と同じ35円、予想年間配当も70円で据え置いている。
決算説明会で永守重信会長兼CEOは従来予想を上回った4~9月期純利益について「満足いかないが業績は回復途上」と評価。対米ドルの円安が1円進むと、売上高は100億円、営業利益は11億円の押し上げ効果があるという。中期戦略目標「Vision2025」では2025年度に連結売上高4兆円、2020年度比の従業員1人あたり売上高、営業利益倍増、投資資本利益率(ROIC)15%以上を目指している。
もっとも、9月に社長兼CEOの関潤氏が退任し、永守氏がCEOに復帰。新たに小部博志氏が社長兼COO(最高執行責任者)につく人事が発表された。2024年4月までに次期社長を決めるといい、ここにきてカリスマ経営者、永守氏の後継者をめぐる問題が浮上している。
■村田製作所はスマホ向け需要減で通期見通し下方修正
村田製作所の4~9月期決算(米国基準)は、売上高は1.3%増の9202億円、営業利益は12.2%減の1949億円、税引前四半期純利益は6.4%減の2131億円、四半期純利益は4.4%減の1603億円というかろうじて増収ながら減益決算となった。中間配当は前年同期比15円増配の75円。4~9月期最終利益の修正済みの通期見通しに対する進捗率は54.0%である。
製品分野別の売上高は前年同期比で、積層セラミックコンデンサのコンピュータ向け減少分を円安の追い風を受けたモビリティ(車載)向けの伸びで相殺できた「コンデンサ」が0.8%増、モビリティ向けで増えてもコンピュータ、スマホ向けでは減った「インダクタ・EMIフィルタ」が5.9%減と明暗が分かれ、「コンポーネント」全体では0.6%減だった。「デバイス・モジュール」は、スマホ向けで大きく減った「高周波・通信」の3.6%減、センサ、タイミングデバイスなど「機能デバイス」の8.6%減をリチウムイオン二次電池が大きく伸びた「エナジー・パワー」の32.3%増がカバーし、全体では3.4%の増収だった。「その他」は15.8%増収となっている。
村田製作所は4~9月期決算発表と同時に通期業績見通しを下方修正した。売上高は1100億円引き下げ0.4%増の1兆8200億円、営業利益は600億円引き下げ10.4%減の3800億円、税引前当期純利益は430億円引き下げ7.8%減の3990億円、当期純利益は270億円引き下げ5.5%減の2970億円とした。かろうじて増益は確保するが減益幅が拡大し、営業利益は2ケタの減益、最終利益は3期ぶりの減益となる見込み。予想期末配当は修正なく前期比5円増の75円で、予想年間配当は前期比20円増配の150円とした。
通期業績見通し下方修正の理由として村田製作所は、インフレや在庫調整の影響で中国をはじめ世界的にスマホ、パソコンの生産台数が大きく減少すると予想され、低下した部品需要、工場稼働率の回復のメドが立たず円安効果ではカバーしきれないことを挙げている。予想為替レートはドル円120円から140円に変更した。通期の設備投資額も300億円引き下げて2100億円としたが、研究開発費は逆に上方修正。中・長期的なコンデンサ需要の回復を見込んで生産能力の増強は続けるとしている。
■ロームは自動車向けパワー半導体好調で業績上方修正
ロームの4~9月期決算(日本基準)は、売上高は16.7%増の2599億円、営業利益は46.0%増の504億円、経常利益は87.3%増の709億円、四半期純利益は69.2%増の521億円で、3ケタ増益が並んだ前4~9月期には及ばないものの大幅増収増益を記録した。自動車向けパワー半導体が好調で主力のLSI、半導体素子分野の売上が大きく伸び、それに全分野で円安のプラス効果も加わった。4~9月期の最終利益の修正済みの通期見通しに対する進捗率は65.1%。中間配当は前年同期比25円増の100円としている。
セグメント別は全分野で増収増益。「LSI」の売上高は前年同期比17.1%増、セグメント利益は77.7%増。高機能化やxEV化が進む自動車向けの電源ICのシェアが大きく拡大したほか、絶縁ゲートドライバICのような高付加価値製品が伸びて利益増に寄与し、設備投資に支えられた産業機器関連市場も需要が堅調に推移した。「半導体素子」は売上高17.5%増、セグメント利益22.6%増。ダイオード、パワーデバイスの自動車向け需要が順調に拡大し、トランジスタも産業機器関連やパソコン向けの需要が堅調。発光ダイオードも売り上げを伸ばしたが、半導体レーザーは産業機器関連市場で売上を落とした。「モジュール」は売上高16.3%増、セグメント利益44.5%増。プリンタヘッド、自動車向けのオプティカルモジュールが販売を伸ばしている。「その他」は売上高9.5%増、セグメント利益14.8%増。自動車向け抵抗器の高付加価値製品が増収、増益に寄与した。
ロームは4~9月期決算発表と同時に通期業績見通しを上方修正した。売上高は100億円引き上げて15.0%増の5200億円とし過去最高。営業利益は140億円引き上げて25.9%増の900億円、経常利益は310億円引き上げて27.2%増の1050億円、当期純利益は200億円引き上げて19.7%増の800億円とし、過去最高益だった2001年3月期の861億円に迫る。下期の想定為替レートは1米ドル=135円。予想期末配当は前期比10円減の100円だが、予想年間配当は前期比15円増の200円としている。決算と同時に200億円(発行済み株式総数の4%)を上限とする自社株買いも発表した。
通期業績見通し上方修正の理由としてロームは、中・長期の成長が期待される自動車関連市場、産業機器関連市場に対し、需要の高い「パワー」「アナログ」「汎用デバイス」の製品群を供給する強みと、為替の円安効果を挙げている。好需要を背景に中長期での生産能力増強を目指し、通期の設備投資計画も前期の799億円を401億円も上回る1200億円に上方修正している。10~3月だけで700億円を超える投資が行われる見込み。また、設備投資1200億のうち、特に成長分野の「絶縁ゲートドライバ」「ADAS自動運転向けソリューション」「SiCパワー半導体」などを中心に、生産能力の向上に前期の452億円を大きく上回る769億円を投じる計画になっている。(編集担当:寺尾淳)