脱炭素社会の実現に向け、全世界の電力消費量の大半を占めると言われる電源やモーターの効率改善は、世界的な社会課題となっている。
その中でも、効率改善の鍵を握るのが、電力変換やモーター制御などの様々な電気部品に使用されているパワーデバイスだ。パワーデバイスの性能向上は、電源やモーターの効率向上に直結し、エネルギー消費量の削減につながっていく。
富士経済が今年4月に発表したパワーデバイス市場調査結果「2023年版 次世代パワーデバイス&パワエレ関連機器市場の現状と将来展望」によると、市場は2035年に2022年比で5倍の13兆4302億円にまで拡大し、その内の5兆4485億円をGaN(窒化ガリウム)やSiC(シリコンカーバイド)などの新材料を用いたパワーデバイスが占めると予測。新材料のパワーデバイスは、2022年比で31倍以上の急成長が見込まれている。
SiCパワーデバイスは、従来のSi(シリコン)製品よりも高い電力変換効率が特長で、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーやデータセンター、自動車などの主要分野において、欧州や中国市場を中心に需要が急増。それに伴い、ウェハ生産数の増加や加工技術の向上などで低価格化が進んでいることも、今後の市場を拡大する後押しになると期待されているのだ。
GaNパワーデバイスも、SiC と同様にSiデバイスに比べてスイッチングロスが小さく、高効率な電源システムを実現することができる上、高周波駆動に優れているため、部品や機器の小型化や軽量化にも貢献できるというメリットが強みだ。
ACアダプタなどの高速充電やサーバ電源などを中心に市場が拡大しており、今後は車載分野におけるオンボードチャージャーやDC/DCコンバータなどでの採用が進むと期待されている。シリコン素材に代わるこれらの新材料のパワー半導体は、少し前までは「次世代半導体」と呼ばれていたが、今や「最新半導体」と呼ぶ方がふさわしい勢いだ。
嬉しいことに、日本には三菱電機や東芝、ロームなど、世界トップクラスのパワー半導体メーカーが存在している。この最新のパワーデバイス分野においても、日本メーカーはその技術力で世界の市場をリードしている。
中でも、ロームはSiCパワーデバイスのリーディングカンパニーとして知られているが、GaNパワーデバイスでも世界最高レベルの技術を有している。2022年に業界最高となる8Vまでゲート耐圧を高めた150V耐圧GaN HEMTの量産を開始した同社は、2023年3月にはGaN性能を最大限引き出す制御IC技術を確立するなど、周辺部品を含めたトータルソリューションを展開している。
さらに4月には、Delta Electronics, Inc.の関連会社でGaNデバイスの開発等を手掛けるAncora Semiconductors Inc.との共同開発により、サーバやACアダプタなど幅広い電源システムに最適な、650V耐圧GaN HEMTの新製品を発表し、量産を開始している。
業界トップクラスのデバイス性能を実現した新製品は、スイッチングロスを大きく削減できるため、電源システムの高効率化を可能にする上、GaN HEMTの特長を活かした高速スイッチング動作により、周辺部品の小型化にも貢献する。また、ESD(静電気放電)保護素子を内蔵したことにより、静電破壊耐量が3.5kVまで向上しており、アプリケーションの高信頼化にも寄与するという。
こうした日本企業のパワー半導体技術は、脱炭素社会の実現にも大きく貢献することが期待されている。拡大する市場と共に、日本のメーカーもグローバルに成長し、日本経済も明るい方向に導いてほしいものだ。(編集担当:藤原伊織)